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Stylish  作者: 高菜あやめ
第三話 ハロウィンデート
13/14

4. ティアラ

 それからアトラクションを2つ乗り、ショーを1つ観た。途中ハロウィンパレードをながめ、ジャンクフードをかじり、なるたけ楽しむことに集中した。そして日が暮れるのを、この日が終わりになるのを、忘れようと努力した。こいつとのデートは、今日を最初で最後にしようと決めたから。

 優香は怒るだろうけど、しかたない。きっと真人は心配しなくても、すぐに新しい彼女を見つけられる。あたしより全然お似合いの、可愛い彼女なんかすぐにできる……その考えは、想像以上にあたしを打ちのめした。

 ――あたし……いつの間に、こんなにあいつのこと……。

 現実はきっと、笑っちゃうぐらいあっけなく、容赦なく前に進む。あたしの気持ちだけ先へと進めず、おいてきぼりでも進む。あたしにはずっとそれに追いつけない。

 あたしがあいつと付き合うなんて、現実の世界には嘘臭すぎる。ここが夢の国だから、そんなことが許されている気がする。


 夜のパレードまで時間があったので、再び近くのお土産屋に入った。かわいい缶に入ったお菓子をながめながら、瞬く間に過ぎた今日一日を振りかえった。

 ――今日がずっと無くならないように、この缶に詰め込んで持って帰れたらいいのに。

「それも欲しい?」

 隣でやさしくたずねられ、あたしはちょっと泣きそうな気持ちをふりきるように「うん」と元気よく返事をした。

「待ってて、これと一緒に買ってくる」

 真人の手にしたカゴには、優香へのお土産の他にも、いろいろお菓子の缶や箱が入っていた。きっと職場へのお土産だろう。やっぱりこいつはいい奴で、きっと皆に好かれてて、両親とも不仲になったりしたことなくて、学校だってサボったことなんてなくて……あたしと共通の経験なんて、きっと髪をカラーリングしたことぐらいだろう。

「こんにちは」

 一瞬、誰に声を掛けられたのか分からなかったが、目線を少し下げると笑顔の女の子と目が合った。

「あ、朝の?」

「そうです。お姉さんもお買いものですか?」

 今朝、入園の列で前に並んでいた女の子だった。首からポップコーンのバスケットを下げ、頭にキラキラ光るティアラをつけている。朝とちょっと格好が違う。そう言うと、女の子はうれしそうにうなずいてみせた。

「やっぱりティアラが欲しくなって、さっきママに買ってもらったんです」

「そっか、かわいいね」

「お姉さんは? その耳、飾りが無いからティアラと一緒につけてもいいかも」

 あたしは目を丸くした。ちょうどそばの棚にはいろいろな髪飾りがあって、女の子はその中から銀色に光る小さなティアラを選ぶと、あたしに向かって「はい」と笑顔で差し出した。

「そんなの、あたしには似合わないよ」

「でもティアラが似合わない女の子はいないって、ママが言ってました」

 まっすぐな瞳には澄んでいて、目の前のティアラを受け取らずにはいられなかった。「おそろいですね」と笑顔で手を振りながら母親のもとへ戻っていく女の子に、あたしは苦笑をもらして手をふりかえす。棚に戻すことに気が引けて、しかたなくティアラを手にレジに向かった……こっそりと、真人に気づかれないように。


 外に出るとすっかり日が落ちていた。夜空に浮かぶのは、星空をかき消す勢いの人工的な明りで、やっぱり不自然な世界が広がっていた。

「寒いから」

 短い言葉とともに引き寄せられ、背中からそっと抱きしめられた。やがて音楽と光の洪水が押し寄せてきて、あたしたちをすっぽりと包みこんでいく。

「ねえ、つけないの」

「なにが?」

「ティアラ」

 耳元でささやかれ、あたしはびっくりして後ろをふりかえると、そこには人の悪い笑みを浮かべた端正な顔があった。

「レジへ行くところみちゃった」

「……見てんなよ」

「ふふ」

 七色の光が暗闇に立つあたしたちに、まるで雨のように降りそそいでいく。あまりにも非現実的なその空間で、あたしは決心したように真人に向き直り、ぐっと顔をあげた。

「今日は楽しかった」

「俺も楽しかったよ」

 向けられる甘い微笑にグラリと気持ちが揺らぎそうになるのを、奥歯を噛みしめて必死にこらえた。

「だから、今日を最後のデートにしよう」

「……真紀ちゃん?」

 あたしはまっすぐ真人の目を見た。

「今日で、真人と会うのは最後にする」

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