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Stylish  作者: 高菜あやめ
第三話 ハロウィンデート
12/14

3. 似合わない場所

 真人に連れてこられた場所は、おもちゃ箱みたいな建物の前だった。よく見るとお城のようで、入口には子連れの親子が短い列を作っていた。

「真紀ちゃん、いい?」

「あ、ああ……」

 並んで腕を伸ばす真人の手には、スマホがかざされていた。あたしはこわばった表情だったにちがいない。「後で画像送るね」という申し出に首を振った。

「せっかくだから中入ろうか?」

 真人に手を引かれるまま、あたしは従順に付いていった。並んでいる列はサクサクと動くため、すぐに乗れそうだ。

「……どんなアトラクションなんだ、ここ?」

「大丈夫、怖くないから」

 中に続く通路が薄暗くて、ちょっと眉をしかめたら隣からそっと囁かれた。それがこそばゆくてぎゅっと目をつぶると、一緒につないでいた手も強く握りしめてしまった。少し骨ばった、あたしのより大きな手のひら。意識したとたんドクリと心臓が跳ねた。

 やがて順番が来て、船に乗り込んだ。ゆっくりとおとぎの世界へといざなう船頭で、あたしは半分意識がうつろになってきた。

 ――かわいいなあ。

 こんな場所、子供のときに来てみたかった。でも両親は共働きで、叔母さんの家によくあずけられたけど、遊園地には連れて行ってもらった記憶はない。きっとあたしには似合わないと思ったのだろう……怖がりで、かわいくなくて、無口だったから。

 こんなに可愛くてにぎやかで、しあわせがあふれていそうな世界にいるのは間違っているようで、だんだん怖くなってきた。ここはあたしがいちゃいけない世界な気がしてきた。目をそらし、耳をふさごうとしたら後ろから声がきこえてきた。

 他愛の無いカップルの会話だ。彼女が小さく可愛い笑い声を立てた。そうか、今分かった……隣の真人を見れない。

 あたしは、この場所にふさわしくない気がした。


「疲れた?」

 黙って首をふると、隣から「まったく」とため息交じりの声がした。ベンチに座らされ、待っているように言われ、急にひとりになった。あたしはスマホを取り出すと、電話をかけた。2コールで相手が応答した。

『どしたの!? 兄貴は!? うまくいってる!?』

「……優香、お前なあ」

 こいつやっぱり確信犯か? さいしょっから薄々おかしい気はしていたんだけど、電話口の優香はあくまで『仮病』を否定した。

「で、ホントのとこ、風邪はどうなんだよ」

『うん、微熱。でも喉がめちゃくちゃ痛い。明日学校行けるかなぁ』

 そう電話口で笑う優香の声が少しかすれていた。風邪は本当だったらしい。

「ごめん。疑って」

『ううんこっちこそ。朝、先に連絡しなくてごめん。いきなり兄貴があらわれてびっくりしたでしょ。でも先に言ったら、きっと真紀は来ないと思ったんだ』

 たしかに、優香の代わりに真人が来るってあらかじめ知っていたら、そもそも断っていたかもしれない。

『それで真紀、デートはどんな具合なの?』

「……うん」

『まさか変なことされた!?』

「ばっ……ちげーよ。ただ……あたしでいいのかなって」

『なにがよ?』

「その、デ、デートの相手」

『あったりまえでしょ? いまさら何いってんの真紀? 兄貴の気持ち、とっくに分かっていたじゃん。あの人ぜんぜん隠さないし』

「そういうんじゃなくって……あたしみたいなんで、いいのかなって」

『……』

 向かいの屋台でなにか食べ物を買っていた真人がふりかえった。電話を手にするあたしに気づき、ちょっと笑って手をふっている。あたしはなにも返せない。

「あいつモテんだろ? かっこいいし気もきくし、なんつーか、もっと可愛いげのある彼女とかの方が似合うと思う。あたしみたいな、元ヤンでがさつで口が悪くて、か、かわいくできない女わざわざ選ばなくっても」

『……真紀、怒るよ』

 優香の低い声に、あたしは唇をかみしめた。正面からは小さな包みを手に、真人がベンチへと戻ってくるところだった。その顔はなぜか笑っていない。あたしは通話を切ると、スマホを急いでバッグにしまった。

「……真紀ちゃん、どうしたの。具合でも悪い?」

「ううん」

「そう? 顔色が悪いみたいだ。これ買ってきたんだけど、食べられそうもなければ無理しなくても……」

「食う。よこせよ」

 まだ温かい包みをひったくるように真人からうばうと、包みから取り出したものを確認せずにかじりついた。シナモンの香りがふんわりと鼻腔をくすぐり、口の中に甘い味がひろがった。

「どう、おいしい?」

「……うん」

「よかった」

 隣を見上げたら、笑顔とぶつかった。心臓がまた跳ねた。恥ずかしいし、緊張するし、でもなんだか切ないような泣きたいような、変な気持ちだった。

 ――もっと可愛げのある彼女とかの方が……。

 優香に言った電話越しの自分の声が、頭の中でガンガンと鳴り響いていた。

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