表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Stylish  作者: 高菜あやめ
第一話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/14

1. ご希望の髪型は?

「真紀ちゃん、星華せいか学園に受かっちゃうなんて本当にえらいわ!」


 第一志望の高校に受かったとき、お母さんが手作りのケーキを焼いてくれた。あたしこと伏見真紀ふしみ まきにとっては大事件。だってうちのお母さんだぜ? あの、冗談じゃなく、洗剤で米をといじゃう人だよ?


 お父さんは、お母さんのケーキをうまそうに食っていた。でもホント、お世辞抜きにうまかった。まさしくキセキ。あたしはケーキ好きだけど、市販のヤツしか食ったことなかったから、ちょっと感動した。


「やっぱり、お母さんの育てかたが間違っていなかったのねえ」

「よく言うよ。あたし、中学のときはめっちゃ問題児だったんだから」

「でもこうやって、ちゃんといい子に戻ったじゃないか。えらいぞ、真紀」


 ニコニコ顔の両親を前に、なんだか力が抜けた。


(ま、こういう親だからこそ、バカバカしくて、反抗する気にもなれなかったんだけど)


 中学時代は、規則にもセンコーにもクラスにもなじめなくて、教室じゃずっと浮いていた。気がついたら、ちょっとすさんでた。


 とはいえ、すさんでたって言っても、大したことはしてない。学校サボってゲーセン行ったり、ぶらぶらしてただけ。

 成績は悪くなかったし、勉強も嫌いじゃなかった。このへんが限界。悪ぶって、我慢してらんない。好きな授業があると、つい登校しちゃってたもんな。


(でも、この見た目だけは、さすがにいろいろ言われたな)


 髪は腰までのロングで、色は派手めの金。ピアスは両耳合わせて7つ。うちの学校、校則ゆるいほうだけど、それでも先生たちの反応は冷ややかだった。

 でも、春からはじまる星華学園って女子高は、今までのゆるい中学とは、ぜんぜん違うんだ。授業は質が高いってウワサだし、通う生徒は品がいいんだって。

 つまり、今のあたしの見た目じゃ、マズイって意味。


「やっぱ、髪切ってこようかな」

「あらじゃあ、駅の向かいにできた、新しい美容院に行ってみたら。若い女の子の間で、すっごく評判いいみたいよ?」

「ふーん」


 あたしの反応の薄さに、今度はビールを飲んでいたお父さんも口をはさんできた。


「きっと可愛くしてもらえるぞ。あとついでに言うと、お父さんはね、真紀にはもうちょっと女の子らしい言葉を使って欲しいなあ。せっかくお母さんに似て、可愛く生まれだんだから」

「あらやだぁ、お父さんたら!」


 お母さんがウフフと笑うと、お父さんはお母さんの手を取って、だらしなく鼻を伸ばした。

 マッタク、娘の目の前でよくやるよ。


「今、美容院のリンク送ったわ。お店の名前は『aqua』よ」


 スマホで店のページを開くと、シンプルでセンス良さげなデザインだった。

 ホントに髪を切るんだって思うと、だんだんワクワクしてきた。同時に、ちょっとだけさみしくもある。


(このロング、けっこう気に入ってたんだけどな)


 でも散々ブリーチしちゃったから、毛先もボロボロでもう限界。痛みが激しすぎて、半年前からブリーチやめたから、根元が地毛の茶髪でヤバすぎ。

 そう思ったら、いてもたってもいられず、さっそくオンライン予約をしてた。ラッキーなことに、キャンセル入ってたみたいで、その日の午後に予約が取れた。



⭐︎



 午後、さっそく美容院に行ってみた。

 もっと迷うかと思ったけど、店はすぐに見つかった。わりと新しい雑居ビルの一階で、明るくて、木製の棚や家具がイイ感じにあたたかいみを出している。たしかに女子ウケ良さそう。


「いらっしゃいませー、ご予約ですか?」


 扉を開くと、すぐに女のスタッフが笑顔でやってきた。名前を言ったら、受付のソファーに案内される。ほどなくして、店の奥から若い男が現れた。


「はじめまして。本日担当させていただく、井沢と申します」

「……ども」


 あたしはちょっと会釈をした。井沢という若い男は、綺麗にセットした髪を肩まで伸ばしてて、白いシャツに、嫌味のない銀のアクセをつけていた。ただ顔は嫌味なくらいイケメンだ――お母さんが「若い子に人気の店」って言っていたけれど、たぶんコイツがその理由かも。


 案内された席に着くと、鏡越しに井沢と目が合った。ニコッと笑われて、あたしは居心地悪く目を伏せてしまう……こういうフレンドリーなのは、ニガテだ。


「本日はカットでしたね。どういった髪型をご希望ですか」


 そう問われ、あたしはなにも考えてなかったことに気がついた。

 しばらく無言で考えた後ようやく口にしたのは、なんだか自分で聞いてもあきれる希望だった。


「えっと、なんか真面目臭いヤツ」


 すると井沢はとたんに吹き出した。


「ご、ごめん……真面目臭い、ね。そっか、そうきたか」


 急にタメ口になった井沢は、クスクス笑いながらあたしの長い金髪をひと束すくい上げた。


(うわー、こう見ると悲惨なほど傷んでいるな)


 きっと鏡の中の男も『ひでえ』って思ってる――けど、手にしたハサミを二、三度シャキシャキと動かして、鏡越しに微笑んだ。


「どのくらいなら切ってもいい?」


 鏡の中のあたしが、眉を寄せてる。


「……テキトーに短く」

「では、おまかせってことでよろしいでしょうか?」


 長くてきれいな指先が、あたしの傷んだ髪をサラサラとすく。あたしは決意して、無言でうなずいた。


 ――さよなら。


 その後、井沢に『肩上まで切ってもいですか?』と言われたので、かまわないって返事したら、想像以上に短くされてしまった。

 もともと癖のまったくない、ストレートの髪を、アゴのラインまで切られた。毛先はレイヤーで軽くされ、カラーは明るめのアッシュベージュに。これが地毛の色と、びっくりするほどマッチしてた。


「とてもお似合いですよ」


 ぼんやりと鏡の中の自分をながめていたら、後ろに立つ井沢が自信ありげにうなずいている。


「……どーも」

「ブリーチの上にカラーしたので、アイロンはやめといたほうがいいですね。あと、なにか分からないことがあったら、いつでもご連絡ください」


 そんな風に言われたけど、あたしは『うわ、めんど』とスルーした。


「ところで『真面目臭いヤツ』ってオーダー、うまくいってます?」


 長身の男は少し屈んで、あたしに目をのぞくように言った。


「だって、そう切ったんだろ?」

「ええ、だいぶ印象は変わったと思いますよ。学校で気づかれないかもしれませんね」

「別にいいし。春から星華高校だから、知ってるやつ誰もいねーし」


 井沢はえっ、と一瞬目を見開いた。


「……うち妹も、春から星華学園なんですよ」


 マジか、同じ学校かよ。


「あ、すいません……ただあいつ、友だちできるか不安がってたんで……見かけたらでいいんで、もしよかったら……」

「別に、いいけど」


 そう言ったから、井沢はうれしそうに笑った。妹のこと気にしてんだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ