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神様

悠美は、街中を公園へ向けて早足で歩いていた。

さっきは前を歩いていた蓮も、今は斜め後ろを利泉と並んで歩いて付いて来る。つまりは、斜め右後ろに蓮、斜め左後ろを利泉が、それぞれ歩いて付いて来る訳で、皆の視線は否応なく悠美にも注がれた…まだ、こんなに人の注目を浴びる事には耐えられない。前の仕事での、プレゼンテーションを思い出してしまう…。

しかも、羨望だけでなく、妬みの目で見ている者までいるのだ。悠美は自然、早足になった。そう、私はこんなイケメン二人を連れて歩ける女じゃないわよ。でも、あっちが離れないんだから仕方ないじゃないの!

悠美は心の中で呟いていた。

やっとの思いで公園に着いた時には、夕焼け空だった。空にはもう月が白く出ていて、なんだかそれがホッとした。公園と言っても、奥まで入って行くと人目が無さ過ぎて怖いし、だからと言って人目に付き過ぎてもまたこの二人は目立つしで、車道脇の辺りのベンチに、三人で並んで腰掛けた。二人は逃がさない為か、ご丁寧に悠美を挟んで両脇に腰掛けていた。

悠美は小さくなりながら、いくらか話の分かりそうな利泉のほうを向いて言った。

「それで、利泉様、どういったことで私は連れ去られようとしているのでしょう。」

悠美は自分でも驚いたが、ここは聡子のように、美しく話さなければと咄嗟に思った。なので自分には精一杯の丁寧な言葉で話そうとすると、思ってもいなかったが、利泉を「様」付けしてしまった…でも、本当にそれがぴったりの高尚なイメージで、言ってしまってから、それでいいかと思った。利泉は頷いた。

「詳しく話すと長くなるので手短に言うとの、我が王の皇女達の、生まれ変わりである可能性があるからだ。」

悠美はきょとんとした。王?

「王様が居るのですか?」

利泉は頷いた。

「我らの王は、主があの日来た、あの辺りを領地にしておる王だ。我らは仕える軍神であって、見回りに出ておって主に会った。それで、王に皇女なのかどうか見極めてもらおうと思い、主を連れ去ろうとしたのだ。」

黙っていた蓮が言った。

「…皇女は三人いらした。転生して人になっておるとのこと。しかし、人の器に転生しようと神の命であることには変わりないゆえ、満月の日、我らが見え、話せるようになると言われておる。見えるだけなら、普通の人でも結構ちらほらと居るのよ。」

悠美は話を整理した。この二人は王に仕えている。皇女がおそらく死んで、人に転生している。それを王が探していて、手がかりは満月の日にこの人達が見えて、話せるようになる…。ちょっと待って、神の命がどうのと言っていたわね。

「神の命ってどういうことでしょうか。」

蓮は怠そうに手を振った。

「だから我らよ。」と、利泉と自分を指した。「我らは軍神だと言ったであろう。我らは神。神の世から来たのだ。神の世は、主らが言う所の次元の違う所にあって、一部を主らと同じ次元を共有する形で居る。人には、普通我らが見えぬし、話すことなど出来ぬ。」

利泉は頷いて、傍の歩道を通る人が、こちらを見て何やらきゃーきゃー言いながら歩いて行くのを指した。

「今、我らは主と話すために、回りに奇異な目で見られぬため、姿を人にも見えるようにしておる。なので、あのようにこちらを見る者が居る訳だ。」

悠美は、その通りすがりの人達を見た。いっそ見えないままの方が、目立たないと思うんだけど。というか、本当にそんなこと、信じろというのかしら。でも、あからさまに疑って断ったら、この二人は怖いしなあ。

「あの…悪いのですけど、おそらく人違いかと。」悠美は恐る恐る言った。「神の皇女なんて、そんな大それたことはないです。私、普通と変わらず生きて来ましたし。満月に何か変な事になることもなかったし、あの時初めて、あなたがたのような神を見ました。それまで、見た事なんかなかったのです。」

蓮はフンと鼻を鳴らした。

「それは我らとて同じ思いぞ。あのように暴れて叫ぶ皇女など聞いたこともない。だが、それを決めるのは王。我らではない。なので、主は王の御前に出なければならぬ。」

利泉が同意して悠美を見た。

「選択の余地は主にも我らにもない。我らは、主を連れて来るようにとの命を受けてここへ来た。主の「気」を辿っての。」

悠美はさっきも聞いた、この「気」という言葉が気になった。

「「気」とは、何でしょうか。」

利泉は忍耐強く言った。

「「気」とは、個々の命から発しられる力の色と申すか、匂いと申すか…とにかく、我らには感じることが出来るものぞ。「気」は一人一人違うのだ。我らは主の「気」を知っておったゆえ、それを辿って参ったのだ。確かに、主の「気」は変わっておって、神やも知れぬと思わせる感じではある。とにかく、共に来てもらわねばならぬ。皇女でなければ、すぐに帰してやるゆえ。」

蓮が立ち上がった。

「そう、さっさと済ませてしまおうぞ。主は皇女ではないのだからの。王に目通りして、違うと言って頂き、帰って来る。これでいいではないか。我らの任務も全うされるし、主に付き纏うこともなくなる。」

蓮はグイと悠美の腕を引いた。悠美は慌てて蓮に言った。

「ちょ、ちょっと待って!一度家に帰って、家族が寝てからにしてくれないかしら?帰らないと、心配するじゃない。父も母も居るのよ!」

蓮と利泉は顔を見合わせた。

「わかった。では、月が空の中心に参る頃に迎えに参る。準備して待っておるが良い。」

二人はサッと飛び上がる。悠美が慌てて回りを見ると、ちらほらと見える人々には、二人の姿が、もう見えていないようだった。二人は、宙に浮いたまま言った。

「ではの、悠美。」

二人はサッと飛び立って行った。

悠美はただ茫然とそれを見送った…神の世へ行くなんて。っていうか、あれ、私の妄想じゃないよね?それにあの人達、本当に神様なの?それとも妄想入ってる超能力者?

悠美は自分も二人も信じられなくなりながら、家に向かって駆け出して行った。


悠美は自分の部屋でじっと待っていた。あの二人を信じた訳ではないが、なんだか知らないけど、きっと嫌だと言おうと、押入れに隠れていようと、あの二人には連れ去られてしまうだろう。付いて行くまでずっと追い回されるのなら、さっさと行って、私が皇女様のはずはないって分かってもらわなきゃいけない。あくまで、あの話が本当なら、だけど。

でも、あの二人が尋常でないほどイケメンなのは確かだし、空を飛ぶし、変な力で引っ張るし持ち上げるし、普通じゃないのだけは確かだった。

家に帰ってから、母にも父にも、どんな家系なのかとそれとなく聞いてみたけど、田舎っていう田舎もないし、お互いの実家もこの辺りで、ごく普通の家だと言っていた。由緒正しいというか、古くからあるというか、そんな感じではない。何か理由を見つけようと、思わず突き詰めて聞くと、父も母も怪訝な顔をし始めたので、悠美は慌てて部屋へ戻った…やっぱり、他と変わった所なんて何もない。一般的な家庭の娘じゃないの。

悠美は、ため息を付いた。

月は、もうすぐ空の真ん中へ来る。何だろう、ワクワクするような気がする…ちょっと神の世へ行って、王様に会って来るなんて。ま、あくまで本当ならだけど。もしかしたら、頭が変な集団の、一番頭が変な人だったりして…。

いろいろ考えていると、いつもなら眠くなって来る時間なのに、目が冴えていた。

でも、本当にきちんと今夜中に帰してくれるかなあ…。何しろ、明日はシフトが入ってるし。朝8時からなのに…心配だなあ…。

悠美がそう思いながら、もう一度月を見上げると、甲冑姿の二人の姿が近付いて来るのが見えた。黒いシルエットは間違いなくあの二人、体格が良く背が高く…。

悠美が思っていると、ベランダに降り立った二人がベランダに着いた掃出し窓を見て、開けようとしている。悠美がそういえば鍵を開けなきゃと立ち上がろうとすると、蓮が手を翳し、勝手に部屋の窓が横へスライドして開いた…鍵はボキと変な音を立てて吹き飛んでしまった。二人がそこへ降り立つ。

「蓮…壊さなくても良かったのではないか?」

利泉が言った。蓮はちらと落ちた鍵の金具を見た。

「少し力を入れただけであるのに。あんなものがいったい何の役目を果たしておるのか。」

利泉も首を傾げた。

「何であろうかの。我もあまり詳しくはない。」と、悠美の方を見た。「では、参ろうぞ、悠美。」

利泉が言って手を差し出す。悠美はまたため息を付いた…そう、こんなにもいい男。これが、なんの柵もなく、頭もおかしくはなく、デートの誘いだったりしたらとっても嬉しいだろうになあ…あと、ちゃんと鍵は開けて入ってくれたら。

悠美は利泉に向かって微笑むと、黙って手を差し出した。利泉は一瞬驚いたような顔をしたが、その手を取った。

蓮が悠美を見て、利泉を振り返ると言った。

「利泉。そいつは飛べぬのだから、手を引いて飛ぶ訳には行かぬぞ。ぶら下がって、腕が抜けるやもしれぬ。」

悠美はそれを聞いて表情を凍らせた。そうよね、引っ張られてずっとぶら下がっているなんて…。

利泉が困ったような顔をした。

「そうか。では抱き上げて参るか?」

さらりと言う利泉に、悠美は真っ赤になった。ええええ?!利泉様にお姫様抱っこ…。それ、いい!こんないい男にお姫様抱っこなんて、きっともう一生有りえないもん!

悠美がぼうっとしていると、蓮がフンとツカツカ歩み寄って来て、悠美の腰の辺りをがっつり小脇に抱えると、ぐいと持ち上げて肩に乗せた。

「これで良いわ。行くぞ、利泉。」

悠美はびっくりして一瞬固まったが、ジタバタと暴れた。

「ちょっと!蓮に頼んでないわ!何よ、私は米俵?!蓮、離してってば!」

蓮はお構いなくそのまま飛ぶ。

利泉は呆れたようにその後について飛び立った。


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