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始まりの魔法

天空を突き抜けるように聳え立つ山脈の麓に、昼間にも関わらず夕闇に染まっているように深く、不気味さを漂わせている森があった。

そんな深い森のなかを、可愛らしい、華奢な体躯の少女は一人で歩いていた。

美しい白いドレスに身を包み、腰まである長い金色の髪とサファイアのような蒼い瞳、肌は純白の真珠のよう。

だが、見た目とは反して、彼女は臆することなく歩いており、歩みに迷いはなかった。

「此処が『ヤブロニャの森』ね…」

少女は辺りを見渡しながら小さく呟く。

「この先に『魔女』が住んでいる小屋があるのね」

彼女は嬉々として歩みを早め、奥へと進んでいった。

そんな彼女の様子をじっと観察する人影が1つ。

少女が奥へと消えていったのを確認すると被っていた黒いフードを外すと、可愛らしい顔の可憐な少女が呆れ返った表情を見せていた。

肩まで伸びた白銀の髪とルビーのように紅い瞳と、きめこまやかな白い肌。

彼女は自身の姿を隠すように、真っ黒なローブを目元まで被っていた。

「ったく…あの娘が『聖女』と呼ばれている帝国の王女か…確かに華奢で可憐だが…なんつーか…なぁ…」

訝しげに彼女は少女が消えていった森の奥を見据える。

「…早く帰るか。なんか私に用があるみたいだしな」

彼女は小さく呟くと、少女が姿を消した森の奥へと戻っていった。






―――小さな白色の木造の家についた白の少女は、楽しそうに辺りを見渡す。

小屋の周囲は深い森の中にあるとは思えない程に日が差し込んでいた。

光を囲うように円形に巡る白木の柵には赤と白の花を咲かせる茨が絡み合い、小屋の傍らにある泉からは蒼く輝く水が湧き出ている。

花壇には色とりどりの薔薇が咲いており、珍しい黒や青、紫、金色の薔薇もあった。

「わぁ!綺麗な庭だわ!」

嬉しそうな声をあげる少女の背後に、黒の少女が静かに歩み寄る。

彼女に気づいた白の少女は後ろに振り返ると、更に表情を明るくする。

「あ!貴女が『ヤブロニャの森の魔女』なの?」

「ああ。私はこの『禁忌の森』の守護者の魔女だ」

「やっぱりいたのね!でも、噂じゃ年老いた女の人って聞いたけど、私と同い年なのね!あ、私はカノン・カログリア・パナギアと言うの!貴女の名前は何て言うの?」

ハイテンションの彼女に黒の少女は怪訝そうな顔になる。

「私はリノン。リノン・ソルシエル」

リノンは溜め息混じりに名乗るとカノンを真っ直ぐに見据える。

「で、帝国の秘宝である聖女(あんた)が、なんで魔女(わたし)の住む禁忌の森に居るんだ?」

「あのね、私も魔女になりたいの!」

「………は?(゜ロ゜)」

カノンの言葉にリノンは呆気にとられた。

「あんた…今、魔女になりたいって言ったか…?」

「ええ、言ったわ」

「何で?」

「だって、魔女の方が聖女より楽しそうだし楽じゃない」

「…………………じゃない」

「え?」

ふるふると震えるリノンにカノンはポカンとする。

「楽じゃねぇし…全っぜん楽しくねぇっ!」

ついに堪忍袋の緒が切れたリノン。

「魔女だって大変なんだよ!薬作る材料だって自分で採らなきゃいけないし、大体がグロい材料だ!魔法使うにも素質がない限り使えない魔法ばかりだから覚えんのが大変なんだよ!」

「り…リノンちゃん!?」

突如切れたリノンにカノンは狼狽える。

「大体なぁ、私は帝国を破滅に導くとされている魔女一族(ウェネフィクス)の娘だ!普通蔑むのが当たり前なのに、なんであんたは蔑まないんだ!?訳分からねぇ!母様と一族の皆を殺した帝国の人間が、なんで魔女になりたがるんだよ!」

「あ…」

恐らくリノンは一族以外からの優しさに触れることがなく、一族を殺した人間が「魔女になりたい」と言っているのが理解出来ないのだろうと、カノンは分かった。

「私は確かに、帝国の姫で聖女だけど、聖女だって魔女とかわりないの。力を持っているのだから」

「はぁ…?」

「魔女だって悪い人ばかりじゃないでしょ。生命のカタチは同じじゃない。色んなのがあるわ」

にこにこと笑いながら語るカノン。

「それに、聖の力を持っている魔女なんて素敵じゃない?だから、私は魔女になりたいの」

「………………ぷっ」

唖然としながらリノンはカノンを見据えると、思わず吹き出した。

「あははははっ!なんだそれっ!?」

「あ!やっとリノンちゃんが笑った!」

「あんたが可笑しな事言うからだっつーの。あっははははっ!」

お腹を抱えながらリノンは笑い続け、目尻に溜まった涙を拭うと真っ直ぐにカノンを見据える。

「…あんたの気持ちは分かった。コレを持ってな」

リノンは懐から紅玉石で出来た小さなペンダントトップがついた銀の鎖を渡す。

「これ、まさか『禁断の果実』!?」

「いいや、違う。それは『魔女の果実』だ。魔女見習い…つまり魔法少女が身に付ける魔道具。私が昔使っていたスペアだが、威力は凄いぜ」

笑みを浮かべながらリノンは説明する。

「それを着けた時点で、あんたは魔女見習いだ。後悔しないなら着け…「もう着けた」早っ!」

すばやい動きでペンダントを身に付けたカノンに、いろんな意味で驚きを隠せなかった。

「…とりあえず、よろしくな、カノン」

「うんっ!」

二人は握手をする。

彼女らの出会いと、カノンの魔女修業が、とある運命を廻すことになるとは知らずに。


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