やさしい嘘
大好きなひと。
とてもとても、大切なひと。
焦がれて、焦がれて、愛しくて。
歪だけれども、一応平和と呼べるであろう日々が続くこの国で。
私たちは、哀しいさだめの許に生まれてきてしまった。
そのことを、嘆いたこともあった。
でも、私には兄と、兄の親友がいたから。
二人が、私を支えてくれたから。
私は今、ここに立っている。
兄は、桐吏という。
兄の親友は、啓という。
二人が私を呼ぶ声が。
「--------・・・結花!」
ゆか、と、そう呼ぶ声が。いつだって私を、絶望のふちから引っ張りあげてくれた。
そして、私は啓と、恋に落ちた。
必然だったように思う。私のまわりで血のつながりがない男性は、啓くらいしかいなかったから。
兄には言っていない。
絶対茶化されるに決まってる。
だから絶対に秘密だ。
三か月前、兄と啓は、私よりひと足先に戦場へ向かった。
その日から、毎日欠かさず啓はメールをくれる。
他愛の無い会話。
ほら、今日も、着信を告げる聞きなれた音が鳴る。
----------元気か?
----------うん!
----------桐吏にはバレるなよー?
----------わかってるよ(* ^)(*^-^*)ゞ
兄は一月前、家に帰ってきた。
怪我をしたのだ。
利き腕をひどくして、もう二度と戦場には戻れないと言われたのだと、曖昧な微笑で言っていた。
それがひどく、寂しそうで。
自分のことでもないのに、泣きたくなった。
啓は、そのことには触れてこない。
その優しさが、嬉しい。
明日、私も戦場へ赴く。
----------明日、来るんだって?
----------うん。朝4時出発(_ _lll)
----------起きれるのかー?
----------努力はします・・・
----------あはは。まあ、頑張れ。
もしかしたら、もう、帰ってこられないかもしれない我が家。
だから。
・・・・・・だから。
朝四時。
約束の時間になった。
まだ辺りは薄暗い。
凍て付くような寒さのなか、私は悴んだ手で携帯を開く。そして、いつもよりも少し遅いペースで、短い文をうつ。
あて先は、啓。
----------もう、行くよ。
----------おう。待ってるぞ。
----------うん。
そこで一度、もう帰ってこられないかもしれない我が家を振り返る。
もう二度と会えないかもしれない兄の顔を思い浮かべる。
だから。
だから・・・・・・。
----------ありがとう、お兄ちゃん|
私は、送信ボタンに手を伸ばした。
〝メールが送信されました〟
ごめんね。
辛かったよね。
ごめんね。
ごめんね・・・・・・。
本当は、わかってた。
啓は、お兄ちゃんが怪我を負った日に、死んだんだよね?
それでも、縋ってしまったのは・・・・・・。
そのとき、家の扉が、勢いよく開いた。
「・・・結花!」
私は、反射的に振り返る。
ゆか、と、そう呼ぶ声が。いつだって私を、絶望のふちから救いあげてくれた。
「お兄ちゃん・・・・・・。」
お兄ちゃんは、今にも泣き出しそうな顔でそこに立っていた。
「知ってたのか・・・・・・?」
「・・・うん。」
私の肯定を聞いて、お兄ちゃんの顔がさらに歪む。
「・・・ごめん・・・ごめん、なぁ・・・。こんな兄貴で・・・ごめん・・・・・・。」
「そんな顔で、謝らないで・・・。」
大好きなひと。
とてもとても、大切なひと。
でも、それは。
それは、啓だけじゃないんだよ?
「お兄ちゃんだって、私の大切な人なんだよ?・・・だから・・・・・・」
そんな顔で、こんなにも切なくて、こんなにもやさしい嘘をつかないで・・・・・・っ。
「・・・・・・っ」
背後から、そっと抱き締められた。
優しくて、温かい。
私の背中から胸に回された大きな手に、そっと触れる。
その手は、震えていた。
ずっと一人で抱えて、苦しんでいたんだね・・・。
ごめんね。ごめんね。
もう、いいよ?
私も一緒に、背負うから。
だから。
「ありがとう、お兄ちゃん・・・っ」
「・・・ぅっ・・・ふ・・・・・・っ」
聞き慣れた声が、押し殺せなかった嗚咽を漏らす。
「・・・・・・帰って・・・・・・来い・・・っ」
「・・・うん・・・・・・。」
そのまま二人で、泣き崩れた。
一枚の、写真がある。
啓と、桐吏と、結花。
みんなが、笑っている。
それはまるで、今はもう失くしてしまった、優しい日々を象徴しているようで。
恋愛、じゃないような気がします・・・最終的に・・・。
どうでしたでしょうか??
うまくいかないっすねー、どうも・・・。
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