初めての出会いの物語Ⅰ
これから物語を本格的に動かしたいと思います。
その時俺は喚いていた。母親とはぐれてしまった時の幼子のように。
その時俺は泣いていた。何かに怯えるように。
そしてすべてを理解したとき笑った。狂ったように。
その時俺は彼女と出会った。それまでのことは覚えていないのにその瞬間のことははっきり覚えている。そして彼女が放った一言目は、
『ゴツッ』
重い拳だった。
いきなり後ろから後頭部を殴られた。その瞬間何があったか知らないがとにかく俺はそのまま前に倒れた。
「いってぇ。」
そう言って右手で後頭部を押さえる。何か鈍器で殴られたんじゃないかと思うくらいにとにかく痛かった。押さえた右手を目の前まで持ってきて開いてみたが出血はしていないようだった。そんなことで安心していると不意に後ろの方から、
「さっきからビービーうるさいわね。あんた泣く以外に能がないの?ああ、そういえばさっきは笑ってたわね。気持ち悪かったけど。」
そんな罵倒が飛んできた。この世界で聞く初めての自分以外の人の声。その声は声変わりもしていない高い少女の声だった。それが罵倒であったことは少し、いや、かなり引っかかるのだが、それでも少しの希望を感じて声のした方向に体を向けた。そこに立っていたのは金髪の短髪、目の色は碧。そしてなぜか昔の西洋の駅員の格好をしてなんだか自身ありげにニヤついている。一目見たときは男の子のようにも見えるが袖を捲っているために見えた華奢なその細い腕や体つきから小学生くらいの女の子だということが窺える。そんな少女でも俺がこの世界で始めてあった自分以外の人間だ。やはりその事実は曲げられなかった。当然俺はその少女にすがった、頼ろうとした。
「お、おい。お前誰なんだよ。ここは何処なんだ?俺は誰なんだ?」
「あーもう、うっさいわね。ってかあんたいきなり私にお前呼ばわりなんてどういうつもりよ。」
「そんなことはどうだっていい!俺の質問に応えてくれよ!」
「っく・・・言うじゃないの。いいわ応えてあげる。・・・その前に。」
そう言って僕を見ている視線を少し傾けて少し顔を赤らめた。
「その格好どうにかしなさいよ。」
ぶっきら棒にそう言った。そんな俺の格好は、全裸だった。
少女に連れられて来た最後尾で少女と同じような昔の西洋風の駅員の制服を渡された。渡された制服はなぜか自分の体にぴったり合っていて不思議に思ったがそんなことより今はこの空気を何とかしたかった。名前も聞いていないその少女はさっきのことがあってか嫌に静かだった。さっきからわき目も触れずどんどん前の車両に向かって歩いている。何か話題はないものか・・・。
「そ、そうだ何でこの服、駅員の制服みたいなんだ?」
「はあ?そんなことも知らないわけ?・・・そうか記憶が。」
何かを呟いた彼女は考え事をするような素振りをした。
「ん?お前俺のこと知ってんのか?だったら教えてくれよ。俺は一体どうなったんだ?何でこんな」
いろいろ聞こうと思ったのだが少女は俺の顔の前に手を出して俺の言葉を遮断し、苛々した様子で
「うっさいわね。ホントせかっちなんだから。後、私はカンパネルラよ!あんたにお前なんて呼ばれる筋合いはないわよ!」
そう言い放ちこっちを睨んでくる。どうやらこの少女はカンパネルラと言うらしい。気が強いという言葉では足りない。
良く言えば元気のいい子供、悪く言えば生意気な餓鬼。そんな感じだ。
<でもカンパネルラって名前どこかで・・・?>
記憶がない俺だったが、なにも全てを忘れてしまったわけではないようだった。自分のことや家族のこと自分に関係する事柄だけはどうしても思い出せないのだが、なぜか一般的な知識は持ち合わせていた。<なんだか全て仕組まれているような気がしてならない。この制服にしたってそうだ。>
そう思って制服をもう一度よく確かめてみた。やっぱり寸法は計算されつくしたようにぴったりでとても精巧に作られていた。なんだか全てが仕組まれているように思えて背筋がぞっとする。この少女は一体何を考えているのだろうか、全く見当がつかない。
「はい、そこ座って。」
そう言って座席を指差した。俺は手前の席に座る。一体何が始まるんだ?
「仕方ないからあんたのことを教えてあげる。」
「本当か!頼む教えてくれ、俺は誰なんだ!」
突然の朗報に息を荒立てる。
「だから焦らないの。ほんとせかっちね。それにあんたのことより先にここのことも教えないといけないし。」
「ここのこと?」
「そう、あんたが何でここに居るのか。それとここは何処なのか。」
そういえば、自分のことばかり気にしすぎていてここが何処なのかなんて全く考えていなかったがここは一体何処なんだろう。蒸気機関にも見える内装なのだがシャンデリアがあったり所々普通じゃない、いや、逸脱しているという言葉がしっくりくる。何かが違うのだ。それが何かまではわからなかったのだが。それよりも、カンパネルラはさっき『あんたが何でここに居るのか』確かにそう言った。俺は何かの理由があってここに連れて来られたのだろうか、だとしたら何なんだろう。
「あんたちょっとそっち向きなさいよ。」
そうカンパネルラはカーテンで締め切られた窓のほうを指差す。考え事をしていた俺は少し反応が遅れて、
「お、おう。」
そんな生返事をする。そしてカンパネルラが奥の席の前で俺のほうを見て何かを自慢するように、
「じゃあまずここが何処なのか、それを教えてあげるわ。」
そう言ってカーテンに手を伸ばす。彼女が何がしたいのか全くわからない。
「じゃあ、開けるわよ。せーのっ。」
開いたカーテンの先からまず目に入ったのは光。今まで暗いところにいたせいで目が眩んでしまう。だんだん目がなれてきて見えてきた景色はこれまで以上に目を疑うものだった。
銀河だった。
読んで頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。