プロローグ真~始まりのための物語~
実際のプロローグはむしろこっちになります。それと今回から少し物語を動かして行きたいと思います。
「へっくしゅっ。」
強烈な寒さに対して俺の体がSOS信号を送っている。目を覚ましたのだとばかり思っていたのだが、どうやら違っていたらしい。俺が居るのはなぜか列車というか昔の映画に出てくるような蒸気機関の内装のような場所だった。俺はその場所のちょうど真ん中にいた。左右には座席が取り付けられており、窓がついているようだったがその窓はカーテンで締め切られており、外の様子は伺うことが出来ない。かといって、周りは暗いわけではなく、天井に一定区間ごとに取り付けられたいかにも高そうなシャンデリアのおかげで明るかった。そして奇妙なことに人は誰も乗っていない。俺以外に人は誰としていないのだ、ここが列車や蒸気機関の類のものなら他の車両には人が居るのかもしれないと思ったから前の車両や後ろの車両を見てみたのだが、やはり人の姿はなかった。こんな状況を突きつけられたら、人は誰しも夢であると思うだろう。もし夢だと思わない奴が居るとしたらそいつはただの変わり者か、日頃から変わった出来事に干渉しているような性質を持った奴以外には居ないだろう。もちろん俺はそのどちらでもないので今のこの状況を素直に夢だと思ったのだ。だが俺もひとつだけ気掛かりがあった。それは、
なぜ俺は目を覚ましたと思ったんだ?
普通、人が目を覚ますという表現を使うときは夢から覚めたときや正気に戻ったときの慣用句的な表現のときだ。だが今はそのどちらにも当てはまらない。むしろ前者からも後者からもまるで逆だ。自分は今眠りについたと思っているし、こんな夢を見るというのは自分が精神的に疲れてしまっているのだろうとすら思っている。なのに目を覚ましたと思ったのはなぜだ?俺に何かあったのか?
「・・・思い・・・出せない。」
それは、単純に自分に何があったのかを思い出せないのではなく全ての記憶がなくなってしまっているのだった。名前、年齢、住所だけに止まらず自分の家族のこと、友人、そして思い出。全てが無くなっていた。
恐怖だった。
自分が何者かもわからず、どこに居るかもわからない。それを教えてくれるための人はこの孤独な世界には一人としていなかった。
叫んだ。自分の存在がここにあることを示すために。必死だった。
「俺は誰なんだ。」
だが返事はない。
「ここは何処なんだ。」
やはり返事はない。
そうして叫び続け、恐怖し、発狂し、周りの座席を殴りつけた。
だが返ってくるのは痛みと沈黙だった。
そうして得たのは絶望と孤独と深い悲しみだった。
この時のことはよく覚えていない。きっとまた叫んでいたのだろう喉がガラガラになっていた。だが一つだけ覚えていることがあった。それは、
彼女に出会ったことだ。
今回も読んで頂きありがとうございました。またお読み頂けると嬉しいです。