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プロローグ~終わりの物語~

シュールなミステリーを目指してきていきたいと思います。

「・・・・・×××さん。」

 朦朧とする意識の中で瞳の外の世界でまず初めに見えたものはヘルメットを被った男の人だった。年齢はよくわからないが若い人には見えない。被っているヘルメットが工事現場にあるようなものだったら、きっと左官や大工に間違われるだろうが、そんなに露骨なものでもないから、この人はきっともっと違う職業だろう。例えば救急隊員とか。

「・・・聞こえますか。×××さん、×××さん。」

 ここはどこだろうか?さっきから救急隊員の人や周りにいた白い服を着た女の人が大声を上げて、誰かの名前を呼んでいる。もっとも、それが名前を呼んでいるのかどうかと聞かれるとあまり自信がない。さっきから叫び声の中にテレビの砂嵐のような音が聞こえてくる。その後必ず、『さん』という言葉が聞こえるから、誰かの名前を呼んでいるのだと思ったのだ。

「×××さん、×××さん。」

 さっきから救急隊員の人は誰のことを呼んでいるのだろうと思ったのだが、どうやら俺のことを呼んでいるらしい。俺の顔を覗き込むようにして×××さん×××さんと呼びかけながら、体を叩いているのが視界の果てで見えたのだった。

 叩いている?

 確かに救急隊員の人は俺を体を叩いているように見えたが俺には全くその感覚がないのだ。よく見ればその隣では俺の腕に点滴を刺す人の姿もあったが、針が刺さる痛みも薬が血管の中を通っていく感覚もない。ほとんどの感覚が消え去ってしまった。今、俺の中で生きている感覚は視覚と聴覚だけだった。

<俺の体はどうなってしまったんだ?俺は夢でも見ているのだろうか?夢?そうだ夢だ、夢を見ているんだ。だとしたら長い。それに妙にリアルすぎる。こんな夢早く終わってしまえばいいのに。>

 そう思うとなんだか聴覚の感覚が鈍ってきた。さっきまで聞こえてきた叫び声が途切れ途切れになって聞こえてくる。それはそれで五月蝿いのだが。だが願っただけで声が聞こえなくなってきていることもまた事実であった。その事実は俺を少し安心させた。自分の夢なら自分の思うようになるという漫画の中の

何の根拠もない理論だったのだが俺はそれにすがることにした。

 するとさっきまでの風景が少し変わる。(風景といってもただ天井が運ばれるのと同時に動くだけの景色だったのだが)どこかの部屋に入ったようだった。すると何人かの人が俺の周りを囲み、

「・・・全員端を・・って、よしせーの。」

 そう言って俺の体を他のものに移す。状況から考えて手術台だろう。ここに着て俺は自分が置かれている(夢の中での)状況を理解することができた。俺は不幸なことに何かの事件か事故に巻き込まれてしまったらしい。そして、搬送先の病院で今まさに手術を行おうとしている。なんとも不幸な夢だ。夢の中なんだからもっと楽しいことをしたかったと心の中で溜め息を吐く。

「・・・先生、○○さんの容態が急・・・した。○○さ・・・術を。」

 また『さん』という言葉の前が聞き取れなかった。だが今回は、自分のときとは違う超音波のような『ピーッ』という音だった。おそらく他の人の名前だろうと勝手に判断する。

<俺以外にも誰か不幸な目にあった人がいるのだろうか?全く俺はなんて夢を見ているんだろうか。夢の中まで俺は嫌な奴だな。>

「全く・・・生が心中・・んて本当・・・時代になったよ。」

<心中?俺が?>

 暗い靄が視界を狭め始める。

<何なんだ何がおきているんだ?>

「先生、至急オぺを・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 暗い靄はすべての感覚を奪い去った。

<待て、待ってくれ。まだ何もわかっていないじゃないか。○○って誰なんだ?>

 ただただ真っ暗なだけになった世界に訴えかけたのだが返事は一切帰ってこない。

 やがて靄は×××を覆い、記憶をも蝕み始める。

<あれ、俺、今何していたんだ?>

<確か、夢?夢を見ていたんだ。でもどんな夢だったっけ?思い出せない。>

 そして靄はすべてを蝕み、

<俺は誰だ?>

<ここは何処なんだ・・・・・>

 ×××の意識は消えていった。


読んでいただいてありがとうございます。これからもゆっくりですが書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

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