志希、ババ抜きの天才
志希のライフはターン毎に削られ、
相手の場のモンスター効果──500ダメージがまた刺さる。
「……っ……!」
佐伯は眉一つ動かさず、
淡々とカードを整えながら静かに告げる。
「……どうぞ。あなたのターンです」
(……この人……
本当に“勝ち”を見てない……
必要な“データ”を取るために戦ってる……)
弟「志希……行けるのか?」
「……行く。
行くしかない……!」
志希は震える指でカードを引き、
そのまま勢いよく場に叩きつけた。
「──《フレア・ショット》発動!」
佐伯(……通常火力……?)
「さらに……《スパーク・チャージ》!」
佐伯(……連打……?……これは……)
弟「……相手にカウンターを吐かせる気だ……!」
佐伯は手札を見下ろし、静かに思考を巡らせた。
(……この火力連打……
どれを止めるべきか……
どれが本命でどれが囮か……
読めない……)
そして一枚、カウンターを切った。
「……《フレア・ショット》を無効化」
志希「チェーンして……《スキップ・ボミング》!」
スタックに積まれたカードの数×500ダメージ。
佐伯の表情がわずかに揺れる。
(……くっ……)
さらにもう一枚、佐伯はカウンターを切った。
手札を一枚捨て、チェーンを無効化する。
「でも……《スパーク・チャージ》は通る!」
(……これは……通すしかない……)
佐伯のライフが500削られる。
佐伯は静かに息を吐いた。
(……読めない……
単なる初心者の火力連打か……
ここで選択を間違えるわけにはいかない……)
勢いに乗った志希はフィールド魔法を叩きつける。
「──《死運の爆符/デスルック・ボム》発動!!」
周囲のプレイヤーが一瞬ざわつく。
「……あのカード……」
「初心者が使うもんじゃないぞ……」
「外したら自爆だろ……?」
《死運の爆符》の効果にはこう書かれていた。
カード名を一枚指定する。
相手はこちらの手札から一枚を選び、
それが指定したカードだった場合、相手ライフに800ダメージ。
失敗した場合、自分に300の反動ダメージ。
この効果は自分のターン毎に1回使える。
佐伯の手が、ほんの一瞬だけ止まった。
(……ここでそれを置く……?
このタイミングで……?
いや、違う……
“理解してない”からこそ置けるのか……)
志希はそれに気づかず、
ただ祈るようにカードを握りしめていた。
(……これが通れば……まだ戦える……!)
弟「でも相手、カウンター持ってるかも──」
佐伯は盤面を見ながら、淡々と計算を始めた。
(……“手札当て”の成功率は……
つまり1 / 手札枚数 ……
成功時の期待値は……
800×成功率……
失敗時の期待値は……
300×(1−成功率)……)
佐伯は志希の手札を読む。
盤面を読む。
行動の癖を読む。
(……この子……
“死運の爆符”のリスクを理解していない……
だからこそ……
“最適解ではないタイミング”で置く……)
その瞬間、佐伯の脳内で計算式が崩れた。
(……もし、これが“囮”なら?
もし、これが“本命ではない”なら?
“理解していないからこそ最適解を外すタイプ”なら……)
佐伯は再び手札に視線を落とした。
(……このカウンターを切るのは……
本当に正しいのか……?)
佐伯は静かに息を吸い、そして──
弟(来る……!)
「……このカードは……通します」
志希「……え?」
周囲のプレイヤーもざわつく。
「え、止めないの?」
「佐伯さんが……?」
「死運の爆符を……通す……?」
佐伯は静かに言った。
「……ダメージ期待値は手札が3枚以下になってようやくプラス。
ならば……止める理由はありません」
志希の心臓が跳ねる。
(……やった……通った……!!)
弟「志希……!これ……ワンチャンあるぞ!!」
「続けてください。
《死運の爆符》の処理を」
志希は《死運の爆符》に手を置いた。
「……いくよ……!」
佐伯は静かに頷く。
「……どうぞ。
“運命”を決めてください」
志希はカード名を宣言する。
「──《レベル・フレア》!!」
周囲のプレイヤーが息を呑む。
志希の手札から1枚のカードを選択する瞬間、
佐伯の目がわずかに見開かれた。
(……当たった……!?)
「《死運の爆符》成功……!
800ダメージ!!」
「……っ……!」
弟「……やった!!」
志希は震えながら笑った。
「……これが……私の……“運”……!」
佐伯にターンが渡される。
(……読みの外側……
合理性の外側……
だが……
強運は何度も続かない……
これでいい……)
────────────────────────────────
流れが傾き始めたのは次のターンだった。
志希は前のターンに続き、このターンも《死運の爆符》を成功させていた。
2ターン連続の成功で場がざわつく中、
佐伯は静かに志希を観察していた。
(……今の“当て方”……偶然ではない……
選んだカードを意図的に“引かせている”……?)
志希は息を整えながら、ターンを渡す。
弟は思い出していた。
「……志希……
昔からババ抜きだけ異常に強かったよな……」
「……うん……なんか……
“相手がどれを選ぶか”わかるんだよね……」
佐伯の目が細くなる。
(……単なる“勘”とは違う。
これは……“選択誘導”……?
いや……まさか……)
さらに次のターン。
志希は3回目の《死運の爆符》を宣言する。
佐伯(……ここは外さないと……
だが……さっきの手札の当て方……
あれは……)
佐伯は気付く。
(……視線だ……)
志希は手札を選ばせるとき、
ほんの一瞬だけ“引いてほしいカード”に視線を落とす。
その動きはあまりに自然で、
普通のプレイヤーなら気づかない。
だが──佐伯は視線解析のプロであるが故に、
無意識にその視線を追ってしまっていた。
そして今回。
志希はシャカパチの要領で手札を1枚ずつ送りながら、
ほんのわずかに“誘導するような”手つきをした。
佐伯(……今の……
“選ばせる”動き……?
いや、そんなはずは……)
クラシックフォース。
相手が“自由に選んだつもりで”、
実は自分が選ばせたいカードを取らせる技法。
志希はもちろん知らない。
だが──
ババ抜きで鍛えた“相手の癖を読む力”が、
戦いの中で自然に形になってしまった。
そして、佐伯の指先が触れたカードは──
まさに、志希が宣言したカードだった。
《死運の爆符》の効果が炸裂し、
佐伯のライフが800削られる。
佐伯は息を呑んだ。
(……誘導されている……
“本命”を引かされている……
この感覚……初めてだ……)
志希は気付かない。
自分がどれほどの技術を使っているのか。
ただ、震える手でカードを握りしめ、
必死に戦っているだけ。
(……なんとなく……
このカード名を宣言すれば……
当たる気がする……)
だが佐伯には、はっきりと見えていた。
(毎ターン確実に当ててくる……
これは……“技術”だ……!)
佐伯は試合が始まってから初めて、
ほんのわずかに表情を崩した。
(……この子……
“読みの外側”どころか……
“確率の外側”にいる……!?
こんな相手、初めてだ……!!)




