志希、運命との出会い
街灯の逆光の中、一人の男が立っていた。
志希は涙で滲む視界を瞬きで拭い、
そのシルエットを見つめた。
(……誰……?)
泣き疲れた頭では、
状況を理解する余裕すらない。
ただ──
男の手元で、何かが光った。
志希の心臓が跳ねる。
(まさか……)
男がゆっくりと歩み寄るにつれ、
逆光の向こうの輪郭がはっきりしていく。
男は長身で、年齢は30代くらい。
カジュアルな服装に眼鏡という、どこにでもいそうな出で立ち。
けれど──
“会社員”とも“カードショップ常連”とも違う、
妙な落ち着きと存在感をまとっている。
男の手には、
確かに志希が落とした《創世竜ネオ・ジェネシス》が握られていた。
男はゆっくりとカードを差し出した。
「……これ、君のだろ?」
志希は目を見開く。
「えっ……!?
なんで……持ってるの……?」
男は微笑む。
「風に乗って転がってきたんだ。
まるで“俺に拾われる運命だった”みたいにな」
そして、手の中のカードを
一瞬だけ懐かしそうに見つめた。
レアカード特有の枠の輝きが、
街灯の下で淡く揺れる。
「あなた……誰……?」
「俺のことは知らなくてもいい。
ただ──」
男は志希の手にカードをそっと握らせる。
「カードってのはな……
持ち主の“想い”が強い方に戻ってくるんだよ」
志希は震える声で返す。
「えっ……そうなの……?」
「大事にしろよ。
落としたカードは……
落とした人間の心も試してるんだ」
志希は震える手で受け取る。
「……ありがとう……ございます……」
男は志希の涙を見て、少しだけ目を細めた。
「ドラゴンズ・オブ・エタニティ……か。
懐かしいな。俺も昔やってたよ」
志希は涙を拭きながら、かすれた声で返す。
「……昔……?」
男は静かに頷いた。
「そう。
でも……ある日、気づいたんだ。
“運だけじゃ勝てないゲームがある”って」
志希は瞬きをした。
男は続ける。
「君、今日……運に振り回されただろ?」
志希は言葉を失った。
男はポケットから、もう一枚のカードを取り出した。
それは、
ドラゴンズ・オブ・エタニティとは明らかに違う、
重厚なデザインのカードだった。
「もし……“運じゃなくて、実力で勝ちたい”と思ったら──
こっちの世界に来るといい」
志希は息を呑む。
「君みたいに“諦めない奴”は、強くなる。
……運に裏切られても、立ち上がるだろ?」
志希は胸の奥が熱くなるのを感じた。
男は背を向け、歩き出す。
「名前は……“クロノ・アーク”ってゲームだ。
戦略がすべてだ。
運に泣かされることは、もうない」
志希は思わず叫んだ。
「ちょっと待って!!
名前くらい──!」
男は振り返らずに答えた。
「……ただの元プレイヤーさ。
でも──君はきっと、俺より強くなる」
男は夜風に揺れる街灯の影を踏みながら歩き出し、
そのまま静かに、
街のざわめきへと紛れていった。
夜風が吹き抜ける。
志希は手の中のカードを見つめた。
《創世竜ネオ・ジェネシス》
そして、男が置いていったもう一枚のカード。
胸の奥で、何かが静かに動き出す。
志希の新しい物語は、ここから始まる。




