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志希、ゲームのカード落としちゃった

新パックを求めて近所のコンビニをしらみつぶしに回った帰り道。


志希(しき)はバス停のベンチに腰を落とすと、

そのまま背もたれに倒れ込んだ。


「足が……もう……棒……。

帰りは、バス使ってもいいよね……?」


無理もない。一日中歩き回ったのだ。

十数件のコンビニを巡り、店員にマークされた結果、

カレーを売りつけられ、ガラポンを回し、

クイズを仕掛けられ、おばちゃんの柔らか圧に心を折られ――

それでも志希はパックを集め続けた。その数、約40。


弟は呆れながらも、姉の執念に感心していた。

「志希……よくここまでやったな……」


志希は疲労の色濃い顔で、それでも誇らしげに笑う。


「でもいいの。これだけ苦労したんだから……

絶対当たる気がするんだよね」


その“根拠のない自信”だけは、いつも揺らがない。



志希はバス停に座ったまま、パックを一つ手に取ると、

まるで呼吸するように自然に破った。


ビリッ。


弟が悲鳴を上げる。

「ここで開けんの!? せめて家まで待とうよ!」


志希は振り返り、目をギラつかせた。


「うるさい!うるさい!

運は逃げ足早いの!

今度こそ逃がさないんだよね!!」


その迫力に、弟は黙るしかなかった。

ベンチの上には、空のパックと外れカードが山のように積み上がっていく。



そして――奇跡は突然訪れた。


遠くの曲がり角にバスのライトが見えた瞬間、志希の手が止まる。

「……え……?」


次の瞬間、バス停に絶叫が響いた。

「でたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


夜の街に響き渡る志希の絶叫。

通りすがりの犬がビクッとして吠えた。


弟はカードを覗き込み、目を丸くした。

「……マジで……《創世竜ネオ・ジェネシス》……!」


挿絵(By みてみん)


初めて手にする本物のトップレア。

志希は震える手でカードを抱きしめた。


「わたし……やった……!

これまでの苦労……全部報われた……!」


その顔は、涙と汗と疲労と狂気が入り混じった、

なんとも言えない表情だった。


──────────────────────────────────


志希はようやく手にした“奇跡の一枚”を大事に胸に抱えながら、

帰りのバスに乗り込んだ。


「ふふふ……夢じゃない……

今日こそ本当に当たったんだよね……

これで私も勝ち組確定……」


弟は横目で姉を見ながら、念を押す。

「志希、落とすなよ。絶対だぞ」


志希はカードを胸に押し当てたまま、うっとりとした声で返した。


「大丈夫だよぉ……

こんなに大事にしてるんだから……

絶対……絶対……」


その瞬間、バスが急ブレーキをかけた。


「きゃっ!」


志希の手から《ネオ・ジェネシス》がふわりと宙に舞う。

その瞬間、確かに世界は静止した。


「……やだ……行かないで……」

志希は震える声で呟いた。


「志希!!」


志希の悲鳴が、夜の車内に響き渡った。

「いやああああああああああああ!!」


バスの床に落ちたカードは座席の下へ滑り込み、

ゆっくりと、ゆっくりと――

揺れに合わせて奥へ奥へと転がっていく。


「ちょっ……待って……!

私の……私のレア……!」


志希は必死に手を伸ばすが──

その手が何かを掴むことはなかった。


目的地のバス停に到着。

電動ドアが開く。

瞬間、夜風が吹き込み──

カードはそのまま外へ飛ばされていった。



志希は膝から崩れ落ちた。


「ああああああああああああああああ!!

なんでえええええええええ!!」


運転手は淡々としていた。


「お客様、降りるなら早くお願いします」


「カードが……私のレアカードが……!」


「知らないです……」


──────────────────────────────────


志希はバスを降り、

アスファルトに膝をついたまま、肩を震わせて泣き崩れた。


「せっかく……せっかく当たったのに……

なんで私だけ……

なんで……!」


涙が地面に落ちるたび、

今日一日の努力が全部、音を立てて崩れていくようだった。



そのとき──


「……落とし物、探してるのか?」


低く、静かな声が夜風を裂いた。


志希は顔を上げる。


街灯の逆光の中、

一人の男が立っていた。

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