志希、生活改善企画
風呂配信でBANされた翌日。
志希はソファでスマホをいじっていたが、
突然、動きが止まった。
「……え、なにこれ……」
弟が横目で見る。
「またオリパの開封動画か?」
「違う……
“カードゲーマーの臭い問題”って……
めっちゃバズってる……」
YouTubeのおすすめには、
“カードゲーマー、ついに店側から入浴義務を課される”
“風呂入らないやつは生活も終わってる”
“店員が語る“やばい客”の特徴”
など、志希が見たくないタイトルが並んでいた。
志希はスマホを握りしめた。
「……なんで……
なんで私のこと言ってるみたいなの……?」
弟は横でパンをかじりながら言う。
「そりゃそうだろ。
お前、風呂以外の生活も終わってるじゃん」
志希はむっとした。
「終わってないし!
普通だし!!」
弟は手を止め、指を折りながら淡々と数え始めた。
「朝ごはん:食べない
昼ごはん:カップ麺
晩ごはん:Uber
運動:ゼロ
睡眠:昼夜逆転
部屋:汚い
ゴミ:積んでる
洗濯:週に1回
風呂:2日に1回
オリパ:毎日」
志希は耳を塞いだ。
「聞こえない聞こえない聞こえない!!」
弟「ネット上では、風呂だけじゃなくて
“食生活・運動・睡眠・部屋の衛生”まで話題になってるんだよ。
カードゲーマーの生活全体が問題視されてる」
志希は震えた。
「……じゃあ……
風呂だけじゃ……
入店許可……出ない……?」
「出ない」
志希はゆっくり立ち上がった。
「……生活……改善する……
カードゲーマーの名誉のために……
いや違う……
カードショップに入るために……」
こうして、
志希の“生活改善企画”が始まった。
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志希は配信をつけると、妙に張り切った声で宣言した。
「今日から私は変わるよ! まずは“自炊”から始めるんだよね!」
コメント欄がざわつく。
「おお」
「ついに志希が本気出す」
「これは期待」
志希は胸を張った。
「じゃあ、まずは材料を買いに行くところから──」
そう言って立ち上がったものの、玄関の方を見てピタッと止まる。
「……あれ、外ちょっと暗くない?」
志希はためらうようにスマホを取り出し、
そっと Uber Eats を開いた。
「……今日は雨だから、ウーバーでいいよね」
コメント欄は即座に刺す。
「知ってた」
「生活改善(ウーバー強化月間)」
「雨じゃなくても頼むくせに」
──生活改善初日は、玄関にすら到達しなかった。
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その翌日。
志希は昨日よりは少しだけ真面目な顔で配信をつけた。
「昨日は……まあ……雨だったし。
今日はちゃんと作るよ。自炊する。ほんとにする。」
志希は買い物袋を手に取ろうとして──
ふと動きを止めた。
「……待って。
買い物行く前に、レシピ見たほうがよくない……?」
志希はスマホを取り出し、
YouTubeで「簡単 レシピ」と検索した。
検索結果の一番上に出てきたのは、
『まいにち簡単ごはん』の“切らずに作れる野菜炒め”。
「佐伯まひろ……誰だろ……でも簡単って書いてあるし……」
志希は動画をタップした。
『こんにちは、まひろです。今日は包丁を使わずに作れる野菜炒めを紹介します』
「包丁使わない……? 神……?」
『まずはカット野菜を用意します』
「買うだけ……ふむふむ……」
『フライパンに油をひいて、炒めるだけです』
「……え、これ……私でもできるんじゃない……?」
志希は動画を巻き戻しながら、
真剣にメモを取ろうとする。
「カット野菜……炒める……味つけ……
これなら……本当に……」
──その瞬間。
動画がふっと暗転し、広告が挟まる。
画面にデカデカと表示されたのは、
「Uber Eats
あなたの“いつもの注文”が今だけ20%オフ!」
志希「…………」
コメント欄:
「終わった」
「タイミング完璧すぎる」
「アルゴリズムに生活バレてる女」
広告は続く。
「前回頼んだお店が、あなたにおすすめ!」
画面には志希が昨日頼んだ店の写真が映る。
「……これ……作るより早いよね……?」
志希はレシピ動画を閉じ、
広告の“今すぐ注文”ボタンに指を伸ばした。
──二日目は、YouTube広告に完敗した。
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さらに翌日。
今日は散歩チャレンジらしい。
「今日は絶対に外に出るよ! まずは散歩して体力つける!」
靴を履いて玄関まで行き、勢いよくドアを開けた瞬間、
冷たい風が顔にぶつかった。
「……え、今日こんな寒いの?」
志希はそっとドアを閉め、
スマホを取り出して Uberのアプリを開く。
「……タクシーで近くの公園まで行って、そこから歩くっていうのも“散歩”だよね?」
料金が表示される。
志希の顔が曇った。
「……高っ。無理。散歩は明日からでいいよね」
コメント欄は容赦ない。
「散歩にタクシー使おうとする女」
「明日からって言い続けて3年経つタイプ」
「外気に負ける姫」
──散歩チャレンジは、玄関のドアを開けた3秒で終了した。
しかし、志希は反論するように胸を張った。
「でもね、私だって外に出るときあるんだよ! ほら、コンビニ行くし!」
コメント欄が即座に刺す。
「何しに?」
志希「ATMでお金下ろすため」
「それだけ?」
志希「うん」
コメント欄が爆発する。
「外出=ATMは草」
「志希の行動範囲、半径300m」
「もうコンビニに住め」
弟が横からぼそっと言う。
「志希、ATM行くときだけ元気だよな」
「だってウーバー代必要なんだもん!」
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その日の夜。
志希は布団にくるまりながらため息をついた。
「……お腹すいた……
でも外出るのは無理……
今日、玄関まで行っただけで疲れた……」
志希はスマホを取り出し、
ためらいながら Uber Eats を開く。
「……ウーバーでいいよね……」
コメント欄:
「結局そこに戻る」
「散歩も料理もやらないのに飯だけは頼む」
「むしろ悪化してる」
志希は満足げに注文ボタンを押した。
「……今日も頑張ったし、これはご褒美……」
リスナーは悟った。
志希は今日もブレない。




