志希、風呂配信でBANされる
カードショップの入浴義務ルールが制定され、
志希は入店するために“毎日風呂に入る”ことを求められた。
志希は不満そうにソファへ沈み込み、
クッションをいじりながらつぶやいた。
「なんで私が……
風呂って……毎日入るものなの……?」
弟はゲームの手を止め、呆れたように振り返る。
「まあ、普通はな」
志希は深いため息をついた。
「じゃあ……証明しなきゃいけないんだよね……
風呂入ったって……」
弟は肩をすくめる。
「店長が“入浴証明”とか言い出したしな」
志希は震えながら言う。
「……配信で……証明すればいい……?」
弟は眉をひそめる。
「やめとけ」
しかし志希は突然、
ソファをバンッと叩いて立ち上がった。
「最近さ、“風呂入れ”ってコメント多いんだよね。
だから入浴ルーティン配信する!
ちゃんと入ってるアピール!」
弟は頭を抱えた。
「それ、絶対ろくなことにならないやつだろ」
志希はバスタオルを巻きながら言う。
「大丈夫だよ!
ちゃんと映さないから!
湯気でなんとかなるでしょ!」
弟「ならねぇよ」
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志希は風呂場の棚の端にスマホを立てかけ、
バスタオルを巻いた状態で配信をつけた。
「みんな〜!
今日は生活改善企画!
入浴前ルーティン!」
画面に映るのは棚だけ。
シャンプー、スポンジ、石鹸が整然と並んでいる。
コメント欄が即座に反応した。
「運営見てるぞ」
「BANカウントダウン」
「嫌な予感しかしない」
志希は胸を張る。
「棚しか映してないから大丈夫!」
その瞬間、
ゴトッ。
志希の肘が棚にぶつかった。
棚がわずかに揺れ、スマホの画角がふらつく。
コメント欄が一気に騒ぎ出す。
「角度変わった!」
「今、危なかったぞ!」
「映る映る映る!!」
志希は慌ててタオルを押さえ、
スマホの角度を必死に戻す。
「大丈夫!!
ちゃんとタオル巻いてるし!」
しかしコメント欄は容赦ない。
「平面なら安心」
「圧縮タイプ」
「洗濯板」
志希は即座に噛みついた。
「誰が洗濯板だ!!!!」
弟がスマホの通話越しに冷静な声を入れる。
「スルーしろ」
「スルーできるか!!
言っとくけど私Fだからね!?」
コメント欄がさらに荒れた。
「急に何」
「聞いてない」
「自称Fカップ」
志希はキレ気味に叫ぶ。
「Fだっつってんだろ!!
何回言わせんの!?
しつけーな!!」
弟は呆れたように言う。
「誰も聞いてないのに連呼するな」
コメント欄はさらに加速する。
「強調するほど怪しい」
「必死すぎ」
「情緒がでかい」
「情緒は関係ない!!」
志希は棚の上のボディソープを取ろうとして、
手を伸ばした。
その拍子に、
ガタンッ!!
棚が大きく揺れ、スマホがさらに傾いた。
画面の端に、志希の肩が一瞬だけ映りかける。
コメント欄が爆発する。
「今の危険!!」
「運営ーーー!!」
「Fが揺れた」
志希は叫ぶ。
「やばいやばいやばい!!
映ってない!!揺れてないから!!」
弟はため息をついた。
「だからやめろって言っただろ」
そして───
突然、画面がブラックアウトした。
『この配信は規約違反の可能性があるため停止されました』
志希は固まったまま、
スマホを握りしめて叫ぶ。
「えっ!?!?
なんで!?
棚しか映してないのに!!」
弟の声が冷静に落ちてくる。
「風呂配信+カップ数連呼は止められるに決まってる」
志希はタオル姿のまま、
その場にぺたんと座り込んだ。
数分後。
志希は髪をタオルで拭きながら、
別枠で配信を立ち上げた。
志希はタオルを握り締めながら、
ふてくされた顔で画面に向かって言う。
「生活改善配信しようとしただけなのに……
規約違反で“BAN”された……」
コメント欄は容赦ない。
「改善方向が違う」
「F連呼BAN」
「危機管理ゼロ」
志希はタオルに顔を押しつけたまま、
くぐもった声で反論する。
「……だって……
ちゃんとやろうとしたんだよ……?」
弟の声がスピーカー越しに響く。
「お前が勝手に自爆しただけだろ」
志希はゆっくりと顔を上げ、涙目で言う。
「……でもさ……
BANされたってことは……
店長もこれ見てるよね。
ちゃんとお風呂入ったんだから……
そろそろ入店、許可してくれてもいいんだよ?」
リスナーは悟った。
志希は今日もブレない。




