志希、カード化される
志希の初勝利を記念して作られた”新カードゲーム”
「レジェンズ・オブ・フォーチュン」が大コケした大会当日。
発売記念大会が行われたのは、
ショッピングモール前の広場に設営された特設イベントエリアだった。
広場の中央には、妙に立派なステージが組まれている。
黒い鉄骨で組まれた骨組み、企業ロゴ入りの巨大バックパネル、
そしてステージ前には赤いカーペットが敷かれていた。
……にもかかわらず、
広場に立っている参加者は──たった3人。
会場は不自然なほど静まり返っていた。
大会運営のスーツの男はステージの上でマイクを握り、気まずそうに言う。
「今日は来てくれてありがとう。
参加賞として……特別なカードを用意したんだ」
そう言って参加者に渡されたのは──
『すべてを失うもの、屍姫』
志希は叫ぶ。
「ちょっと待って!!
私カード化されてるの!?
しかも名前ひどくない!?」
弟は笑い転げる。
「志希の人生そのまんまじゃん」
さらにカードにはこう書かれていた。
『このカードが墓地に送られた時、
プレイヤーは自分の手札と場の全てのカード、
1000ポイントのライフを失う。
次の自分のターンの開始時、屍姫は奇跡的に復活する。』
志希は叫ぶ。
「いや復活するんかい!!
でも全部失うのは嫌だよ!!」
弟は爆笑する。
「志希、これ……
“人生の負けイベントを再現する”ってテキストに書いてあるぞ」
志希はカードを奪い取る。
「やめてよ!!
なんで私の人生がカード効果になってるの!!?」
男はどこか誇らしげに言う。
「志希ちゃんの“運命”をカード化したんだ。
このゲームの象徴としてね」
象徴というには重すぎる。
志希はカードを持ったまま、
無駄に広いステージを見上げて頭を抱えた。
─────────────────────────────────
限定品とはいえ、あまりにも使い道のないこのカード。
大会後、参加者の1人がフリマのオークションに出品した。
『すべてを失うもの、屍姫(非公式)』
→ 出品価格:500円
しかしコメント欄がざわつき始める。
「これ大会限定?」
「カードリストに載ってないんだけど」
「裏設定カード?」
「闇深すぎて逆に欲しい」
そして値段が跳ね上がる。
500円 → 3000円 → 1万円 → 3万円 → 最終的に8万円
志希はスマホを見て叫ぶ。
「なんで8万!?
私の人生カードが8万!?
私のレアカードより高いじゃん!!」
弟は肩を震わせながら言う。
「志希、価値じゃなくて“ストーリー”が強いんだよ」
男は満足げにうなずく。
「やはり志希ちゃんは“伝説”だ」
志希は頭を抱える。
「伝説になりたくないよ!!」
─────────────────────────────────
そして志希は配信をつける。
「みんな……聞いて……
『すべてを失うもの、しき』っていう……
ひどい名前のカードが……
8万円で売れてた……
なんか……複雑……」
コメント欄が爆発する。
「志希の人生カードが高額化」
「非公式カードが公式より人気なの草」
「“すべてを失うもの”が8万で売れる世界」
「志希、もうカード界の都市伝説」
志希はふてくされながら言う。
「……でもさ……
私のカードが高いってことは……
次こそ当たる気がするんだよね」
リスナーは悟った。
志希は今日もブレない。




