志希、警察署の常連になる
50万円の“案件DM”をくれたオリパサイトが消えたあの日から、志希は落ち着かなかった。
弟やリスナーの言う通り、詐欺かもしれない。
でも、どこかでまだ「案件だったかもしれない」と信じたい気持ちがある。
その気持ちを振り払うように、志希は突然立ち上がった。
「……ちょっと確認してくる」
スマホを握りしめ、靴を突っかけて家を出る。
向かった先は、すっかり道順を覚えてしまった警察署だった。
志希は受付に立ち、震える声で言う。
「すみません……相談があって……」
すると、受付の警察官が顔を上げた瞬間、 あからさまに「あー……」という表情をした。
「……志希さん?」
志希は固まる。
「えっ……なんで名前……」
警察官は書類をめくりながら、 ため息まじりに言った。
「また来たの?」
志希は叫ぶ。
「“また”って言わないでよ!! そんなに来てないよ!!」
警察官は淡々と答える。
「先週は“違法オリパ摘発”、その前は“教材出演の件”、さらにその前は“フリマ詐欺”で来てたよね」
志希は床を見つめる。
「……そんなに来てた……?」
警察官は椅子を指さす。
「はい、いつもの席どうぞ」
志希は叫ぶ。
「“いつもの席”って何!? 私、常連なの!?」
警察官はボールペンを取り出しながら言う。
「で、今日は何? また怪しいサイトにお金払おうとした?」
志希はムッとしてDMを見せながら言う。
「違うよ! 今回は“案件”なんだよ! 私、ついに案件もらえるレベルになったの!」
警察官は無表情で言う。
「案件に50万払うのは案件じゃなくて“ただの支払い”だよ」
志希は撃沈した。
警察官は書類を閉じて言う。
「志希さん、あなたは……詐欺グループに狙われやすい体質なんだよ」
志希は反論する。
「いや、今回は詐欺じゃないってば! 警察にアクセス遮断されてるだけで……!」
警察官は眉をひそめる。
「サイトを消して逃げただけだよ。それを“詐欺じゃない”と言い張るのは逆にすごいよ」
志希は机に突っ伏す。
「……なんで私だけ……」
そこへ突然、警察署のドアが開き、 ママが静かに入ってきた。
「志希、迎えに来たわよ」
警察官は一瞬で姿勢を正す。
「……あっ、志希さんのお母様…… いつもお世話になっております……!」
志希は驚く。
「えっ……なんで急に敬語……?」
ママは微笑む。
「警察の方とは“昔からの付き合い”があるのよ」
警察官は冷や汗をかきながら言う。
「ええ……まあ……その…… お母様には色々と……」
志希は震える。
「ママの“昔の知り合い”って…… どこまで広いの……?」
ママは志希の肩に手を置く。
「志希は気にしなくていいのよ。 あなたはオリパだけ楽しんでいればいいの」
警察官は即座にうなずく。
「は、はい、そうですね。 志希さんは……その…… もう来ないように……気をつけてくださいね……」
志希は叫ぶ。
「なんで警察官がママにビビってるの!!?」
そして志希は配信をつける。
「みんな……聞いて……
警察に行ったら席が用意されてた……
しかもママが来たら警察官が急に敬語になった……
なんか……怖い……」
コメント欄が爆発する。
「ママの権力どこまで強いの」
「志希の家、闇が深すぎる」
「しきちゃん係は草」
「志希、もう警察署の常連じゃん」
志希は少し恥ずかしそうに言う。
「……でもさ…… ママが迎えに来てくれたし…… 次こそ当たる気がするんだよね」
リスナーは悟った。
志希は今日もブレない。




