志希、フリマ詐欺に遭う
志希が配信でレア演出を引き当ててから、もう数日が経っていた。
発送通知が来て以来、玄関のチャイムが鳴るたびつい反応してしまう。
もっとも、来るのはウーバーや別の荷物ばかりで、肩透かしを食らうことのほうが多かった。
その日の夕方、またチャイムが鳴る。
「ウーバーかな……?」
軽い気持ちで玄関を開けると、配達員が差し出したのは細長い封筒だった。差出人のショップ名を見た瞬間、胸が跳ねる。
「……これ、だ」
中国語版とはいえ、志希がついに引き当てた“大当たり”。
部屋に戻って封を切ると、中からあの日の“超級閃光龍”が姿を見せた。
志希はカードをそっと机に置き、しばらく黙って見入ってしまう。
配信で引き当てた瞬間のざわめきが、胸の奥でふっとよみがえった。
「……これ、なみえなら高く買ってくれるかも」
そう思って志希はなみえにDMを送る。
『志希ちゃん、そのカードめっちゃ良いじゃん!
中国語版でも欲しい〜!
5万でどう?』
志希は目を見開く。
「5万!?
昨日の“応援金”全部溶かした額じゃん……
これ売ればチャラじゃん……!」
しかし志希の脳内には、
“もっと高く売れるかも”という悪魔の声が響く。
「……なみえに5万で売るのもいいけど……
フリマならもっと高く売れるかもしれないよね」
リスナーの声が脳内で再生される。
「志希、やめとけ」
「絶対トラブルになる」
「なみえに売っとけ」
しかし志希は聞かない。
「いやいや、私もそろそろ“勝ち組”になりたいんだよね」
フリマサイトに出品して10分後、
評価ゼロ・アイコン初期設定のアカウントからメッセージが来る。
『即決8万円で買います。
今すぐ支払うので、先に発送お願いします。』
志希は目を輝かせる。
「8万!?
なみえの5万より高いじゃん!
これはもう……勝ち確だよね!」
パジャマ姿の弟が部屋に顔を出す。
「志希、それ詐欺だよ。
俺も前に“先に送れ”でやられた」
志希は鼻で笑う。
「あんたは黙って。
パチンコで50万溶かした人に言われたくない」
弟は静かにドアを閉めた。
志希はウキウキでカードを梱包し、
コンビニへ走る。
「8万……8万あれば……
高額オリパいけるじゃん……!」
完全に未来の勝利を確信していた。
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数日後、フリマサイトから通知が来る。
『購入者との連絡が取れません。
取引はキャンセルされました。』
志希は固まる。
「……え?」
さらに追い打ち。
『支払いは確認できませんでした。
発送済みの商品は返送されません。』
志希はスマホを落とした。
「…………え?」
リスナーの声が脳内で再生される。
「だから言ったのに」
「なみえに売っとけって」
「志希、またやらかした」
「詐欺に全力で突っ込むタイプ」
志希は床に崩れ落ちる。
「……これ……
なみえのせいだよね……?」
いや違う。
そして志希は配信をつける。
「みんな……聞いて……
私……詐欺に遭った……」
コメント欄が爆発する。
「やっぱり」
「志希、学習して」
「なみえに謝れ」
「弟より先に破滅するの草」
志希は涙目で言う。
「……でもさ……
次こそ当たる気がするんだよね」
リスナーは悟った。
志希は今日もブレない。




