7 皇后選定
「わたくし達、皇帝陛下から直々にお話があると聞いたので残っているのですが、何かありましたの?」
黒曜が去った後、微妙に気まずくなってしまった空気を打ち破るように雪璃が問いかける。その声にハッと我に返った黒曜の側近は立ったままの妃四人に席を勧め、自身も一礼してから同じように座った。
「こちらからお時間をいただいておいて申し訳ございません。これからお話しすることにも関係しているのですが、少し気分がよろしくないとのことで、今日はお部屋に戻られました。後日改めて謝罪する、とのことです」
国の重鎮とはいえ、ひとりでは大した権力もない小娘達に対し随分と律儀なものだ。それだけ未来を見据えているのだろうが、蓮華は謝罪する時間があれば休息を取ってくれと思ってしまう。王の命とはとても軽く、しかし同じくらいに重いものなのだから。
後で見舞いも兼ねて『謝罪は不要』という旨を綴った手紙を届けてもらおう。そんなことを考えていると、他の妃が心配の言葉を口にしているのが耳に入る。でも蓮華はここでは何も言わない。後宮を出る。そのために父に口添えしてもらえるよう、『貴妃』の座を勝ち取る。そんな企みを成功させるにはこのような『些細だけど大事』な場面で少しずつ評価を下げていくのがポイントなのだ。
「ではお話は後日になるのでしょうか?」
「いいえ。僭越ながら私の方からお伝えするようにとのお達しがありましたので、このまま残っていただきたく思います。そうですね……先にこれだけ言っておきましょうか。────ただいまより、皇后選定を開始します」
……唐突な宣言だ。けれども恐らく、この場にいる妃全員察していたことだろう。蓮華だってそんな気はしていた。今日の宴も皇后選定についての話をするのが本来の目的だったのではないだろうか。
「皇后選定の詳細ですが、まず四夫人の皆様にお伝えしたいことがございます。皇帝陛下は二年ほど前から呪いに侵されております。このことは極一部の者しか知らず、陛下にはまだほとんど影響を受けていないから騒ぐなと口止めされていました。そのため、私共は『体調関係なく、皇后選定の時には四夫人にだけでも話して呪い解除に協力させる』という条件で頷いたのです」
淡々とした口調で告げる彼はそのまま『では本題ですが……』と話を続けようとする。思わずちょっと待ってください、と口を挟んでしまった。だが混乱しているのは何も蓮華だけではない。残りの三人だって目を見開いたまま固まっているではないか。
「呪いってどういうことです? なぜそのようなことに? 原因は分かっているのですか?」
「皇帝の情報力でも犯人が分からないのですか!?」
質問攻めにする蓮華と同じくらい動揺しているのは、意外にも気難しいタイプの雪璃だった。比較的冷静な淑妃と夢鈴、青褪める蓮華、そして今にも泣きだしそうな声色で尋ねる雪璃。彼女はもう二年近く皇帝と共にいる。こうして感情を乱されるくらいには大切な存在なのだろう。
雪璃の式神は人の形をしている。緋月と呼ばれていたその少年は寄り添うように彼女の隣に姿を現した。
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