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【完結】鳥籠の華は皇后選定を乗り切りたいっ! ──呪われた皇帝を救いましょう──  作者: 山咲莉亜
鳥籠の華は皇后選定を乗り切りたいっ! ──呪われた皇帝を救いましょう──

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57 どうかあなたの隣で

「────では、あれからずっとお元気なのですね。不調の気配もなさそうですか?」

「ああ、何ひとつ。だが黎邦の奴が体を壊していた期間の分もまとめて執務机に仕事を積み上げてくるので、休む暇がなく困っている。ただでさえ皇后選定の結果を公表する宴の準備で忙しかったというのに……」


 初めて黒曜のお渡りがあった日と同じように、寝台に腰を下ろして酒を嗜む。以前と比べてどこか気が抜けた様子の黒曜は苦い顔で側近の愚痴を漏らした。

 そういえば、以前黎邦も主人の愚痴を蓮華に漏らしていた気がする。それは黒曜が仕事をしない、というものだ。あの時は体の調子が悪かったので許されたが、今はもうその言い訳も使えないのだろう。悩みの根本が同じ『仕事関係』とは、主従で似た者同士だな、と思わず笑みを漏らす。それを見た黒曜は不思議そうに首を傾げていた。


 ……随分と、柔らかい雰囲気になったものだ。


「皇后になった以上、今後はわたくしも共に公務を行うことになるでしょう。皇后として一番大切な仕事は世継ぎを産むことと後宮の管理ですので、あまりお役に立てることはないかもしれませんが……」


 後宮の管理については、今代の四夫人が全員蓮華に協力的なのでそう困ることもないだろう。皇后を除き、後宮で最も力のある四夫人が抑止力となる存在なら後宮が荒れることはそうそうない。

 芙蓉や夢鈴は最初から蓮華に好意的だったが、実は雪璃も蓮華に協力すると明言してくれている。多少棘は残っているものの、それはただの言葉遊びと意地のようなもので、それが分かってしまえばむしろ素直すぎるほどだ。自分が認めた人物に対し、驚くほど尽くそうとしてくれる。


 本人は蓮華と敵対することは絶対にないと伝えてきた時、そっぽを向いて『緋月がお世話になっておりますので』と言っていたが……雪のように白く透明感のある頬が、少し赤く染まっていたのは見なかったふりをした。かわいらしい人である。


「そうだな……蓮華の強みはやはり能力だろう。何かに生かせればとは思うが、剥奪や譲渡はできる限り使わせたくない。先日の件……たった一日で、六年も寿命が縮んだのだから」

「これに関しては難しい話ですね。わたくしは自分の寿命が縮まろうとあまり気にしていませんが、皇后になった以上わたくしひとりの命ではありませんし、また黒曜様から家族を奪ってしまうような真似はしたくありませんし……」

「……そのようなことを気にしていたのか?」

「当然でしょう?」


 本当は黒曜にこのようなことを言うつもりはなかった。けれどこの発言はいただけない。入内してからが初対面ならばいざ知らず、蓮華は本来の黒曜の姿を知っているのだ。心配しないとでも思っていたのか。そしてまさか、周囲の人々に心配されていることに気が付いていなかったのだろうか。それなら蓮華が、勝手に彼らに代わって言わせてもらおう。


「わたくし、実は何年も前からお慕いしているお方がいるのです。その方に初めてお会いしたのは五年ほど前で、お話ししたのも短い時間でしたが、笑顔が素敵なお優しい方、という印象が強く残りました。口数も多いというほどではありませんが、向こうから話題を振ってくださることもありました」


 けれどわたくしはその方のお心をお守りすることができなくて、と微笑を浮かべて俯いた蓮華は気付かない。軽く眉をひそめ、黙って話を聞いていた黒曜は蓮華の言葉に眼光を鋭くした。


「ですが……次にお会いした時、彼からはそのすべてが失われていたのです。笑顔はない、周囲の人には少し冷たい物言いをするようになり、必要最低限しか言葉を発さない。ですから本当に、本当に心配しました。何が原因なのかわたくしは知りませんでしたので。……黒曜様」

「…………」

「これはすべて、あなたのお話なのです」


 黒曜の瞳をまっすぐ見つめ、ゆっくり丁寧に大切な言葉を口にする。

 最後の言葉に目を見開いた理由は果たして何なのだろうか。蓮華が黒曜を慕っていると言った件についてか、心配されていたことを知ったからか、それとも急に自分に話を振られたことに驚いたのか。少しの間沈黙が流れ、何を言うべきか迷っている様子の黒曜に補足する。


「でも呪いの件が解決して以来、少しずつ以前のような姿を取り戻しているように見えます。常に気を張っているような尖った雰囲気が落ち着いているので、良い傾向にあるとは思っていますわ」

「……私はお前が言うほど褒められた人間ではなかったと思うが。なにせ、忙しくともたったひとりで愛情を注ぎ続けてくれた父に報いることはできず。父と国にとって大切な人だった母の命は奪い。挙句の果てには油断して呪いまで掛けられた。……私は幸せになることを許される立場ではないし、傍にいればいつか良くないことに巻き込まれるだろう」


 『だから蓮華、お前にもギリギリまで入内命令を出さなかった。お前の言う「笑顔が失われ、冷たくなり、口数も減った」というのも同じ』


 そう口にする黒曜の瞳には光がない。この人は。黒曜は、一体どれだけ自分を責めながら生きてきたのだろう。どれも黒曜のせいではないはずだ。黒曜の母についても、この国の医療技術では仕方がないこと。


「そのようなことは」

「ない、か? 私もそう思う。だが違うと分かっていても、後悔はいつまでも付き纏う。それこそ呪いのように。……だがまあ、蓮華達のおかげで呪いが解呪されてからは、少し心に余裕ができたのも事実だな」


 黒曜に限らず、芙蓉の話を聞いた時にも同じことを思ったが、蓮華はかなり恵まれた環境で育ったのだろう。悩みらしい悩みを抱えることなく、誰かを失うことも、生活に困ることもなく。家族にも使用人にも心底愛されて。思いつく限りで失ったものといえば、未来の自分くらいだろうか。文字通り命を削りながら生きているのは間違いない。けれどそれはすべて、その時々に必要だったのだ。そもそも寿命まで生きられるかも分からないのだから、このような生き方をしていることに後悔などしたこともない。

 それでも家族には毎度怒られた。今思えば、それは蓮華が黒曜を心配しているのと同じだったのだろう。


「……それなら良かったです。ゆっくりでいいので、また黒曜様らしく生きることのできる日が来ることを願いますわ」

「ああ、努力しよう。……時に蓮華、私を慕っていたという話は本当か?」

「もちろん。一応お伝えしておきますが、これは恋愛感情ですからね。わたくしはずっと隠す気はなかったのですけど、もしやわたくしが言うまで気付きませんでした……?」

「……まあな」


 バツが悪そうな顔をしている。すすっと、さり気なく視線を逸らされた。なので今度は蓮華の方から顔を覗き込んでみる。それに気付いた黒曜はさらに顔を背け、蓮華はそれを追い……という攻防戦をしばらく続けた後、ようやく目が合って自慢げに笑えば、その姿が面白かったのか黒曜もふっと笑みを見せた。

 その瞬間、心臓が早鐘を打つ。やはり黒曜は笑っている方が魅力的で、このように素直に感情を見せている姿をずっと望んでいた蓮華は、嬉しさに顔を覆って少しだけ悶えてしまった。今、蓮華の心を埋め尽くしているのは『嬉しい』『素敵』の二点のみ。


「では私の方からも言わせてもらうが。私も蓮華を好いている。お前はそのことに気付いていたか?」

「……?」

「何を言っているんだ、というような顔をするんじゃない……」

「えっ……あの、え……? つまりわたくしと黒曜様は両想いだと……?」

「まあそうなるな。無意識に動いた後、自分でも良くなかったと思い返すくらいにはお前に対してだけ態度が違ったはずだが」


 思い切り困惑して視線が泳いでいるのが自分でも分かる。すると一瞬呆れたように小さく息を吐いた黒曜が、両腕を広げて自身の胸元に蓮華を招く。並んで座ったまま上半身だけ向かい合うようにすれば、そのままふわりと優しく抱き締められた。

 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。しかし黒曜から優しいお日様の香りがして、ぶわっと顔が赤くなるのが分かった。


「蓮華の場合、一度ハッキリ伝えておかねば妙な誤解をしたまま自己完結しそうだな。──私は、初めて会った時から蓮華を愛している。一目惚れだ」

「それは……とても、光栄に思いま──」

「蓮華。皇后として答える必要はない。今この場にいるのは私達だけだ」

「……嬉しいです。わたくしが一方的に好きなだけだと思っていたので、まるで夢みたい……」


 こうして直接的な言葉をもらってもあまり現実味がない。ふわふわとした心地で、本当に夢なのではないかと錯覚してしまいそうだ。

 五年。五年の片想いだ。それが実は両想いだったなんて、そう簡単に受け入れられる話でもないだろう。


「残念ながら現実だな。信じられないと言うのなら、これからいくらでも伝え続けよう。もう呪いに命を脅かされることもないのだからな」


 そして蓮華も、この後宮から出ることはないので。そう心の中で捕捉しながら、どうしても口角が上がってしまうのを抑えようと頬に手を当てる。残念だなんてとんでもない。好きな人からたくさん愛を囁いてもらえるだなんて、そんなものは嬉しいに決まっているだろう。


 とはいえ、黒曜は皇帝だ。蓮華ひとりを相手にできるわけでもあるまい。彼の心が蓮華の元にあろうと、政治的な面で考えれば蓮華と平等に愛すべき存在は他にもいる。


「でもわたくし、黒曜様の『愛している』を聞けただけで大満足です」


 今後黒曜様が他の妃の元へ通うことがあっても耐えられますわ、という言葉は飲み込んで満面の笑みを見せた。けれどそれも黒曜には見抜かれているのだろう。無言で謝罪するかのように、大きな手で頭を撫でられる。


「黒曜様。わたくしの『能力』という強みを今後どう生かしていくかは、また追々話し合いましょうね。ですから今は……」

「ああ」


 たったひとりの、愛する人を見つめていたい。これから先の人生も、どうかあなたの隣で────

 こんにちは、山咲莉亜です。最後までご覧いただきありがとうございました! これにて『鳥籠の華は皇后選定を乗り切りたいっ! ──呪われた皇帝を救いましょう──』は完結となります。

 皆様、いかがでしたでしょうか? 中華後宮ファンタジーを書いたのは二度目なのですが、初めて書いたものは以前消してしまいまして、実質これが一作品目となります。実は初めて書いた物語の設定等をいくつかこの作品に使っているんです。それがどのあたりかは言いませんが……消してしまった作品の一部を引き継いでくれたこの物語、書いていてとても懐かしい気持ちになりました。


 本作は中華後宮ファンタジーという世界観の都合上、どうしてもキャラクターが多くなってしまって書くのも難しかったですし、同時に読者様が困ってしまうんじゃないかなと少し悩みまして。でも結果的に、全員書いてよかったなと思える、大好きなキャラクター達の物語を描くことができました! 山咲の個人的お気に入りキャラは黎邦や緋月です! でも焔華お兄様も好き! みんな好き……! 皆様の推しキャラもぜひ教えていただけると嬉しいです!!


 改めまして最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!! 今後番外編やキャラクターのプロフィール等も書こうと思っていますので、そちらもぜひ! それでは、また次回作でお会いできますように!!  山咲莉亜



ご覧いただきありがとうございます!

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