56 紅紫色
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せっかくの宴、それも主役のひとりは蓮華だが、今日は蓮華だけ早めに会場を抜けてきた。この後黒曜が四季の宮……つまり皇后に与えられた宮に足を運ぶしきたりとなっている。蓮華はその準備をしなければならないのだ。
もう一度湯に入り、侍女達の手で全身隈なく磨かれてゆく。丁寧にマッサージをされ、今日一日気を張っていて疲れているのもあり、思わず眠りに落ちてしまいそうになった。次の準備に移りますので眠らないでください! と怒られてしまったので何とか意識を保っているが。今度は甘い花の蜜の香りがする。
「わぁ……お肌がすべっすべだわ……」
ここまで丁寧に磨かれたのは初めてかもしれない。しっかり乾かし、オイルを馴染ませた黒髪も艶々である。豪奢に飾りを付けられていた先ほどとは違い、緩めに結って軽く飾り付けられただけだが、皇族の禁色である『紅紫色』の髪飾りは蓮華の髪色に良く映えていた。
身に着ける衣も今日から紅紫色のものがメインになるだろう。皇帝や皇后なら四夫人の色も身に着けられるが、基本は自身の色を使うので。
「薄紅も良くお似合いでしたが、紅紫も同じくらい……いえ、それ以上にお似合いです! お美しいですわ……!」
「ありがとう。少しお腹が空いたのだけど、軽く食べられるものはないかしら? それと黒曜様がお好きな葡萄酒を用意しておいてほしいわ」
「かしこまりました。軽食でしたら、果物でよろしいでしょうか?」
「ええ、よろしく」
恐らくその果物というのは、夢鈴からもらったものだろう。朱家の領地では果物の栽培が盛んだ。とても品質が良く、皇室御用達でもある。蓮華が実家にいる時も何度か取り寄せてもらっていた。
ちなみに黒曜は葡萄酒が好き、という情報はどこかで聞いたものではない。本人も話していなかった。しかし黒曜がお渡りで春麗宮に訪れた際、様々な酒を出してきたが、葡萄酒が一番気に入っている様子だったのだ。
「霜」
『どうした?』
「少し前から夢鈴様の式神の嵐風様が春麗宮で遊んでいたじゃない? そういえば最近はどうなのかなと思って」
『ああ……相変わらずあの場所から動こうとしないようだな。蓮華には言ってなかったが、先日あの式神が行方不明なのだと主人が騒いでいただろう。あの後小一時間叱られていた』
「あらまあ……」
たしかにすごく心配していたので、愛のあるお叱りを受けたのは想像に難くない。けれど夢鈴が貴妃になったことで春麗宮は彼女の宮になったのだし、以前より簡単に様子を見に行けるだろう。夢鈴にはいつでも遊びにいらして、と言われているのでその時にでも見てみようと思う。
夢鈴に限らず、また芙蓉や雪璃、新しく四夫人になった妃ともお茶会を開けたらいいなと思っていると、黒曜来訪の知らせが来る。すぐに立ち上がった蓮華は少しの緊張と共にエントランスへ向かった。
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