55 鳥籠の華は
「皇后選定の結果についてですが、すでに手続き等は済んでおり、今この瞬間もそれぞれそのお立場の方なのだとご理解の上でお聞きくださいませ」
それでは皇后陛下から、と早速本題に入る。振り返りだが、皇后選定では主に選定の内容を見て評価される。しかしそれだけではなく、妃としての資質や皇帝がどの程度正室にしたいと感じるかなど、すべての評価点の合計が最も高い者が皇后に選ばれるのだ。
「瑞朱華国の皇后になられたのは────元貴妃、瑞蓮華妃でございます」
貴妃というだけでなく瑞家直系の女性。そして選定で最も活躍されたお方であったため、このような結果となりました。
名を呼ばれた蓮華は黒曜の隣に用意された席に座ったまま、軽く頭を下げる。最前列にいた蓮華の家族はまさかの展開に驚きながらも感動した様子を見せていた。きっと『あの蓮華が……』と自然の中で駆け回るお転婆っぷりを思い出しているのだろう。安心してほしい、蓮華は皇后になってもこっそり好き放題するつもりなので。黒曜にも『私と一緒になら』という条件ですでに許可を取っている。
蓮華達だけ先に結果を聞いた際、誰ひとりとして嫌悪感のある視線を向けてくることはなかった。むしろ笑顔で祝福してもらい、喜ぶべきである蓮華の方が戸惑ってしまったくらいである。とはいえ、有言実行できて心から安堵したのも事実だ。
「続いて四夫人になります。貴妃、朱夢鈴妃。淑妃、雪璃妃」
ここで一度、会場内が大きく騒めいた。妃達の席を見ればこうして伝えずとも結果は分かっているはずだが、それでも正式に発表されるのでは違うらしい。皇后選定の結果というのは、基本的に順当に貴妃から皇后、淑妃から貴妃……とひとつずつ立場が上がっていく。そして残った賢妃の座が九嬪から繰り上げで選ばれる。実際、ここ数代もそのように決められていた。
しかし雪璃の後に続いた名はさらに会場内を混乱に陥れる。呼ばれたのはいつかの昼下がり、蓮華に情報を提供してくれた妃のひとりだ。彼女は蓮華の予想通り九嬪に席を置く者だったらしく、それも一番上なのだと聞いた。見事な出世だ。
そして賢妃は……元淑妃、芙蓉であった。淑妃から賢妃に降格など聞いたことがない。
「元淑妃である芙蓉妃が賢妃となったのにはいくつか理由があります。詳しくは話せませんが、双方納得の上このようになりましたので、ご了承くださいませ」
────芙蓉及びその一族を罪に問うことはない。お前の能力を失うのは国にとっても大きな損失であるからだ。その代わり、代替わりで四夫人の座を降りても、生涯国のために尽くすことを命ずる。
あの日、芙蓉にはこのような命令が下った。つまり芙蓉は母子共に皇帝の恩情で命拾いしたことになるが、現実はそう甘いものではない。きっと陰であることないこと噂されてしまうだろう。国が求めるものを簡単に提示できないことも多くあるだろう。それでも逃れることはできないのだ。彼女はその命が絶えるまで、この国のために搾取され続ける。ある意味処刑よりも酷い罰だ。
それでも芙蓉は涙を流した。謝罪と、感謝の言葉を口にして。後に蓮華は『生きてさえいればどうとでもなる』のだと芙蓉に聞いた。例え搾取され続けたとしても、それ以外で何かに縛られることはない。これでも二年、淑妃をやっていたのだから、今更ひどい噂が流れようと受け流せる、と。
何より嬉しかったのは再び蓮華達と並び立てることだったそうだ。皆様は私を四夫人のひとりだとは認めてくださらないかもしれませんが、と寂し気な笑みを見せた芙蓉を思わず抱き締めてしまったのは、何も蓮華だけではない。
「以上、これにて正式に皇后選定を終了致します。この後は宴となっておりますので、ごゆるりとお楽しみくださいませ」
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