53 芙蓉の未来
「最後に芙蓉だが」
「……はい」
あえて、淑妃である芙蓉の順番を飛ばしたのはこの場にいる全員が分かっただろう。それでも微笑を浮かべたまま、膝に乗ってきた式神の背を撫でていた彼女は、声を掛けられて一気に緊張感のある空気を纏う。この先の話がどうなるかは、蓮華には分からない。最悪の予想はしてしまっているけれど。
「その生まれ持った能力を極め、名を持つ夢鈴よりも位の高い妃になった時点で、普通の妃とは求められているものが違う。それでも私達の期待に応えるだけでなく宮廷内でも妃として高く評価され、己の責務を全うしようとしている姿は印象的だった。お前は私を恨んでいたのかもしれないが、そういった感情以外も向けられていたのは知っている」
それは主に尊敬。命を狙いながらも表向きは妃として、妻となる女としての努力。このあたりだろうか。
無表情で淡々と話しているが、それでもしっかり自分自身を見てくれていたのが伝わる言葉に、芙蓉は唇を噛み締めて俯いた。その肩は少し震えているようにも見える。
「ところで蓮華。先ほど妃達から能力を剥奪していたが、芙蓉の能力はどの程度使いこなせた?」
「正確には分かりませんが……恐らくは彼女が扱う際の半分も、力を発揮できていなかったかと思います」
「そうか。今言った通り、どの妃も同じだが特に芙蓉は夢鈴を押し退けた分だけ能力面で期待されている。その力の大半が失われるとなれば、国としても大きな損失だ」
とはいえ、芙蓉に能力を返すのは難しいのではないだろうか。彼女はこうして蓮華達と共に席に着いているが、本来ならとっくに牢に入れられていてもおかしくない。皇帝殺しは大罪だ。
「そこで、蓮華には夢鈴や雪璃だけでなく芙蓉にも能力を返させることとする。本来なら一族郎党処刑は免れないが……幸い、一連の事件を知るのはこの場にいる者のみ」
「いいえ。いいえ、陛下。どうか考え直していただきたく。私は皇帝の命を狙いました。約二年間に渡って呪いを掛け続け、暗殺するための策略を巡らせ、ずっとあなた様を裏切り続けてきたのです。家族はともかく、私だけは……生きることを許される立場では、ございません」
「何度も同じことを言わねば分からぬか? あらゆる能力を扱える瑞蓮華ですら、お前の力は扱いきれなかった。常人とはレベルの違う『強化』を完璧に使いこなせるのはこの国でたったひとり」
そう、あれほどの強大な力を思うままに操ることができるのは芙蓉のみだ。所有する者が少なくない力であり、使い方もそれほど難しくない能力だからこそ、芙蓉の力の異常さが分かる。あんなものを蓮華に渡したままでいいはずがない。それに、珍しい力ではない方が案外使いどころが多かったりするものだ。
それはそれとして。黒曜のこの言い方なら、芙蓉の未来は……蓮華にとって、とても喜ばしいものになるかもしれない。
「本来罪人であるお前に拒否権など無いと思え。……長くなったが、選定の結果を伝える。これからこの国の皇后となる妃は────」
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