51 終了の合図
「ん……」
「っ、蓮華!」
「黒曜さま……それにみなさま……?」
兄と別れた後、蓮華が目を覚ましたのは意識を失う前と同じ応接室だった。黒曜は蓮華を抱きかかえて椅子に座っている。ふと視線を上げれば、蓮華の目覚めを待つためか、机の上には先ほどまではなかったはずのお茶が用意されていた。カップから湯気が立っているのでまだ淹れたばかりなのが分かる。
「早かったですね。つ、つい十分ほど前に意識をなくされたばかりなのですが……」
『……焔華が起こしたのか』
「ええ、まあ……あの、陛下。もう大丈夫なので降ろしていただいても……?」
「……体の痛みは」
「ありません。不調はすべて、兄に治していただきましたので」
それよりも早く降ろしてほしい。この体勢は少々どころではなく、かなりよろしくない。少し視線を横に向けるだけで黒曜と目が合うし、彼が話す度に吐息が耳にかかる。
「……陛下?」
「本当に、大丈夫なのだな?」
「は、はい。この通り何ひとつとして問題はございません」
そう答えた後も少しの間ジッと見つめられ、恥ずかしくなって目を逸らせばようやく解放してもらえた。また抱きかかえられる前に急いで近くの席へ移動する。
目覚めて早々、心臓の悪い出来事だ。しかしあたふたとしている蓮華を見た黒曜はふっと小さく笑い、他の妃達も生温かい視線をこちらに向けている。大人しくしているので、どうか面白いものを見ているかのような目をしないでほしい。
なぜか平和な空気感だが、まだ蓮華が眠った後のことを聞いていない。しっかり聞いておかねばと、小さく咳払いをして尋ねる。
「こほん……それで、黒曜様を苦しめていた呪いはどうなったのでしょうか」
「無事に解呪されたようだ。そうだろう?」
「はい。注意深く確認しましたが、貴妃様が意識を失われる直前に完全に霧散しました。影も形もありません」
蓮華や黒曜の問いに答えたのは側近の黎邦だった。自分達を除けば誰にも話していない能力らしいので直接的な表現は避けているが、他の四夫人だって口にしないだけで能力関係であることは何となく察してはいるだろう。
「お姉様、意識を失う前に何かが弾けるような感覚がありませんでしたか? あれは浄化が完了した合図なんです!」
「ええ、ありました。では本当に……」
彼らの言葉を疑ったわけではない。しかし直接自分で感じたことならさらに、説得力は増す。とても喜ばしいことだ。けれど……
皇帝、華黒曜の呪いが解呪された。それが意味することはひとつ。
「貴妃、瑞蓮華。淑妃芙蓉。徳妃、朱夢鈴。そして賢妃雪璃。────今代の皇后選定は、これにて終了とする」
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