50 『夢』
◇
「蓮華。おーい蓮華、いつまで寝るつもりかな? あれ、こんなに目覚めないのも珍しいな。やっぱり蓮華の能力ってコスパが悪いねぇ」
「…………」
「ん……? ああ、お前寝たふりしてるでしょ」
「……バレましたか」
ここは一体どこだろうか……瑞家の屋敷内に見えるが覚えのない空間だ。豪奢ながらも完璧に整えられているがゆえに生活感のない部屋。蓮華は寝台に横になっていたらしい。首を傾げながら室内を見渡せば、ふと見覚えのある絵が目に入った。あれは蓮華が幼い頃、兄の誕生日に贈ったものだ。今見るといかにも子供の落書きといった風だが、絵に釣り合わないほど豪奢な額に入れて飾られている。
「どうしてまた、わたくしの夢に干渉しているのですか? ──焔華お兄様」
「ふふ」
そう、ここは蓮華の兄である瑞焔華の私室だ。普段立ち入らないので見覚えはなかったが、あの絵が飾られているのを見て確信した。まだあんな風に飾っているとは知らなかったので少し気恥ずかしい。
焔華の所持する能力は『夢』。これは意識がない人間の夢に入り込み、直接脳に干渉できるというもの。そしてこの能力を蓮華に使うことができているということは……
「わたくしは眠っているのでしょうか? 最後の記憶は宮内の応接室なのですが……」
「どちらかと言うと、意識を失ったと言った方が正しいんじゃないかな? でも見て分かる通り俺はここにいるから、詳しいことは何も分からないんだよな」
蓮華の体は向こうにあるけど、と蓮華と一緒になって首を傾げる焔華。この能力は意識がない人間相手にしか使えないので、夢の中でこうして焔華と話していても蓮華の本体は眠っているのだろう。心当たりがあるとすれば、解呪のために複数の能力を使ったこと、夢鈴の力で浄化をした代償。そしてそれらによる疲労……くらいだろうか。いずれにせよ、皇后選定の内容については四夫人と審判者しか知らないことなので焔華には話せない。
「では、ひとまずわたくしの脳に干渉して起こしてくださいません? 何となく心当たりはありますので」
「軽く言うね。まあいいけど……それならついでに治癒もしておこうか。病気ではない? みたいだけど不調を訴えているようだから」
「お願いします」
良かった。それなら目覚めた時には問題なく動けるだろう。
普通、脳に直接干渉されるとなると恐ろしいと思うかもしれないが、『夢』は使用するのに複数条件がある。相手が眠っていること、自身の血を一滴でも口にしたことがある者であること、そして危害を加えることはできないようになっている。つまり、もしも治癒能力というものが存在しているならば、焔華のそれは外からではなく中から治すバージョンのようなものだ。脳に直接干渉するので効果が出るのも早い。恐ろしいどころか便利なだけだ。
「うん。それにしても久しぶりのお兄様に対してもっとこう、何かないのかなぁ……お兄様悲しい。どうせ後宮でも式神のあいつにばかり構ってるんだろう?」
「そんなことありません。あの子のことをそんな風に呼ぶのなら、もう一生口を利いてあげませんわよ!」
「ごめんごめん、それだけは勘弁してよ蓮華。謝るから!」
「分かればいいのです。ああ、それともうひとつ」
「?」
「わたくし、皇后になりますわ。まだ決まったわけではありませんけれど、黒曜様のお隣は誰にも譲りたくありませんので。それではまた」
お手紙でも送ります、と言って手を振る。再び眠りにつく直前に報告したため焔華は大混乱で待ってと叫んでいるが、もう手遅れだ。でも皇后選定が終わってしまう前に焔華に報告できて良かった。この決意をするにあたって決定打となったのは兄の言葉なのだ。その点は感謝している。
これからは滅多に会えなくなってしまうだろう。蓮華は皇后になるし、万が一なれなくても後宮を出るつもりはない。妃は後宮から出られないので、今後顔を合わせる機会があるとすれば、夢の中か家族が宮廷を訪れた時のみ。
「お兄様、どうかお元気で。お父様とお母様にもよろしくお伝えください」
◇
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