5 夢見る時は鈴の音で
「霜、そんなに陛下の方ばかり見て、どうかしたの?」
『昼に見た時も思ったがあの男……いや、なんでもない。いずれ分かるであろう』
雪璃が去った後、後ろ姿を追うようにして隣の黒曜へ目を遣った霜に尋ねる。式神に権力など行使できないから問題ないとはいえ、ここまで凝視していれば失礼になるというもの。こちらに視線を誘導するのも兼ねて声を掛ければ、彼は変わらず黒曜を見つめたまま何かを言いかけた。
いずれ分かるとは何なのだろう。黒曜に危害でも及んでいるのだろうか。それともそうなる前? 黒曜は好いているだけでなく、蓮華にとって主人にもあたる存在だ。霜がこのような反応をするのは珍しいから本当は問いただしたい。だがこのような場面でそれは難しい。
「……大丈夫なの?」
『恐らく』
断言はできない、と。能力を使ったわけではないだろう。だとすると何かを感じたのは動物の勘かもしれない。それなら蓮華には分からない。
「危なくなったら教えて?」
『了解した』
「まあ、素敵な式神ですね。うちの嵐風とどちらが強いのかしら?」
「…………」
誰かが近付いてきたことに気が付かなかった。
突然声を掛けられ、思わず殺気と共に能力を使ってしまいそうになったが、その相手を視界に入れた瞬間我に返った。彼女はただの妃ではない。
「こんばんは、貴妃の瑞蓮華様! 徳妃、朱夢鈴です! あの有名な瑞家のご令嬢とお会いできてとても嬉しく思いますわ!」
蓮華様の方から来てくださるかと思いましたが、待ちきれなくて私の方からお伺いしました! と無邪気な笑顔で言ったのは秋の妃と呼ばれる者だ。名前から分かる通り、蓮華と同じで『瑞朱華国』の一文字を持つ特別な家の令嬢。淑妃の能力がもう少し弱ければ淑妃に選ばれていたのは彼女だろうと噂の人物。
「それは失礼致しました。立場上、皇帝陛下以外の方にこちらからご挨拶へ向かうことはできず……」
「ああ、そうでしたね。うっかりです! ところでお姉様、とても興味深いお話が聞こえた気がしましたが私にも教えていただけません?」
「詳しいことはわたくしにも分からないのです。ごめんなさいね。それより夢鈴様、同じ名を持つ一族の生まれとはいえ、この後宮内ではわたくしの方が立場が上なのです。下の者に見下されたくなければ身の程を弁えましょうね」
後宮にいなければ両家は同じくらいの権力を持っている。皇族に次ぐ権力者だから今まではこの態度でも問題なかったのだろう。だが、蓮華がここに来た以上去るまではしっかりしてもらいたい。双方の品格が落ちるのもそうだが、毎度このような絡み方をされれば蓮華は後宮から脱走したくなるだろうから。
ちなみに後宮からの脱走はいかなる場合でも極刑に処されるので、蓮華に恨みがあるのならそのように追い詰めれば合法で殺せる可能性もあるが、初対面であるためそういうわけでもないはず。
彼女の立場を考え、せめて他の誰かに会話を聞かれることのないよう、小声で注意すれば夢鈴は一瞬目を丸くした。そしてこれまでの感じだと怒るかと思ったが、同じように小声で謝罪した後、満足そうな笑みで席に戻って行った。
『やっぱり私の好きなタイプだわ!』
そう、最後に意味深なことを言い残して。
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