49 わたくしはそれに応えたい
『────破壊、というのはこれでいいのか?』
「ふえっ、あっ、びっくりした……! そ、そうです! お姉様動けますか!?」
いつの間にか夢鈴の背後には霜がいたらしく、いきなり声を掛けては彼女を驚かせていた。しかしこの緊迫した状況なので、すぐに今するべき行動を取る。再構築される前に浄化を……! と叫ぶ夢鈴は、この場の誰よりも焦っているようでその実、最も冷静な対応をしているようにも見えた。
「何とか……! これをすべて浄化すればいいのですよね!!」
「はい! 呪いを構成しているものがバラバラになっている状態ですが、ひとつずつではなく一度にすべて浄化した方がよろしいかと!」
「承知しました!」
それは恐らく、呪いを浄化すると痛みに襲われてしまうからだろう。夢鈴も呪いを浄化したことはないのでどの程度の苦痛かは不明らしいが、芙蓉が言うには一度で即死レベルの呪いなのだ。それを浄化するとなれば、当然それ相応に苦しまなければならない。
霜に助けられた。蓮華より早く夢鈴の能力に順応し、呪いを構成するものを破壊してくれたおかげで、蓮華は浄化するだけで良い。優秀な相棒だ。
黒曜を苦しめた蟲毒。けれど犠牲になった生物もまた、苦しかったはずだ。せめて安らかに眠れることを祈って、すべての痛みをこの身に受ける。
消えて、もう二度と誰かを苦しめることのないように、と美しい金色の光を纏った能力で呪いを包み込んだ。痛みで意識は朦朧とし、指先もぷるぷると震える。それでも歯を食いしばり、何とか耐えていれば、ふと背中に温かいものを感じた。
「黒曜、さま……っ」
「私にはお前が倒れぬよう支えることしかできない。まだ……頑張れるか」
「はいっ! ご安心を……!!」
本当はもう限界だ。蓮華は生まれ持った能力が能力なので、常人と違い複数の強大な力を操るのに適した体を持っている。けれどそれはすべて人間の力を超えているものだ。能力の使用制限はなくても蓮華の体はいつか限界を迎えてしまう。
でも、それが何だと言うのだ。蓮華は黒曜を救いたい。ひとりの力では無理でも、本来手を取り合うことは不可能なはずの人達が、蓮華のことを信じて託してくれている。期待してくれている。それに応えられないで、誰が皇后になどなれるか。
黒曜の隣に立つのは彼を支えられる存在であってほしい。いざと言う時に、その命を懸けてでも守るために動ける存在ならばなお良い。皇帝の盾として生きることは皇后の重要な役割のひとつでもある。そしてそれは、生まれ以外に突出した才能がない蓮華でもできることだ。
「あと、すこし……!」
禍々しい漆黒が小さくなってきている。疲労で額に汗が流れ、苦しみに目が潤んだ。指先は心配になるほど震えている。眉間にしわを寄せ、唇を噛み締めるその姿はまさに『命懸け』と言えるほどで。近くで見守る妃達はとても心配そうな顔をしており、黎邦が止めてくれていなければすぐにでも『自分が変わる!』とでも言いだしてしまいそうだった。
そうしてバチンッ! と何かが弾ける感覚がした時、蓮華の体からは一気に力が抜けた。重力に逆らわず倒れ込めば、背後にいた黒曜に支えられ、その生きている証と言える温かさに安心する。思考が働かない中、ゆっくりと瞼が落ちていく。最後に見たのは泣き出してしまいそうなほど歪められた、黒曜の顔だったように思う。
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