48 どうか、思い切り笑って
希少種、というのは滅多に見ない人型の式神であることを言っているのだろう。たしかにこの世界のすべての人が式神を使役しているというのに、恐らくその一割も人型がいないので他とは違う何かがあっても不思議ではない。
『もっとこう、グッとやってガッとやってピシッ! でいいんだよ。丁寧すぎて上手く力が込められてない。雪璃の力業を見な?』
「…………」
「グッとやってガッと……そしてピシッ……? あ、できました!!」
「どうしてこの説明でできるのよ……!」
蓮華の隣に膝を付いた緋月は良く分からない擬音を並べながら、指を揃えた手のひらを勢いよく何かに差し込むような仕草を見せ、そのまま両手で思い切り扉を開くようにした後で、パシッと音を立てながら手を合わせた。蓮華はその手を守護能力に見立て、黒曜の中の違和感を感じた場所で同じようにしてみる。
すると先ほどまで苦戦していたのは何だったのかと思うほど、あっさり黒曜から呪いを引き剥がすことができた。
これには緋月の説明に呆れ切っていた雪璃も驚愕して叫び、それが面白かったのか芙蓉と夢鈴の小さく吹きだす声も聞こえた。
しかし蓮華としては笑っている場合ではない。無事に黒曜から呪いを引き剥がすことはできたが、それはつまり蓮華の手の中に引き剥がした呪いがある、ということでもあるからだ。禍々しい闇を放つ漆黒の蛇を、急いで結界の中に閉じ込める。ここまで来たらあとは浄化するのみだ。
約二年間、自分の心身を侵し続けていた呪いから解放された黒曜は心底安心したような表情を見せた。そんな姿を見て蓮華は確信する。黒曜から表情────特に笑顔が奪われたのは、この呪いのせいだ。ならばこれからは。
「黒曜様!」
どうか、思い切り笑って。それだけでわたくしは救われる。あなたの顔を曇らせるものはこの手で必ず排除してみせるから。
そんな思いを言葉にはせず、微笑みひとつで伝える。それなのに……ああ、何をしているのだろうか。一瞬の安堵が消え去り、今度は悲痛な面持ちだ。蓮華に向かって手を伸ばされるが、一歩下がってそれを避ける。今の蓮華に触れてはいけない。また呪いに侵されてしまう。呪いから解放されたばかりでは体もまだ本調子ではないだろうから。
「お姉様、浄化の前に破壊を使うのです! 呪いを構成する力をバラバラにしてからでないと、結界の中とはいえお姉様が危険な目にあってしまいますわ……っ!!」
破壊……駄目だ、それでは間に合わない。蓮華はこの手に呪いを抱えているだけで精一杯だ。使ったことのない『破壊』の効力を発揮させるには時間が足りなさすぎる。
このままでは暴走してしまう。誰か、動ける者は。黒曜……彼の能力は戦闘特化ではない。ならば黎邦は、と視線を向けるが彼も無理だと首を振られた。こうなったら蓮華がここから離れるのが一番か。少しでも距離を取れば被害は蓮華ひとりだけに留まる────
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