43 似たような境遇
「蓮華」
「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下。ご公務は?」
「ある程度片付いた。断罪は終わったか?」
「ちょうど今、芙蓉様がこのようなことをした理由をお聞きしておりました。そして母君が後宮から追放された理由をご存知ですか、と問いかけたところです」
その答えは『否』だった。席へ勧めながらそれも含めて説明すれば、それならこの先は自分が話す、と黒曜に言われる。本当に良いのだろうか。芙蓉の母については黒曜の両親も深く関わっており、決して平気な心情で語れる話でもないはず。
無表情の黒曜からは何も窺えず、ちらりと背後に控えていた黎邦に視線を向ければ、問題ないとひとつ頷かれる。
「単刀直入に言う。お前の母は、我が父である先帝を殺そうとした」
「……は」
「そんなはずはない、と言うか? 残念ながら事実だ。本来なら処刑されるところを閨……つまり室内に自分達以外に誰もいない空間であり、かつ彼女が当時の寵妃であったがゆえに先帝の恩情で見逃されたのだと聞いている」
そして黒曜は両親に恵まれて育った、と芙蓉は言っていたがそれも違う。むしろ黒曜からすれば悲惨ですらあるだろう。
先の皇后は黒曜を生んだ後、産後の肥立ちが悪く、約一ヶ月後に亡くなった。彼女は芙蓉の母が追放された後の寵妃だったために先帝はひどく悲しんだと聞く。しかし黒曜を恨むことなく、むしろ皇后が残した子だからと大切に育てたそうだ。しかしそんな黒曜のたった一人の家族も、彼が十八歳になる年の春に病気で亡くなった。
彼らはこの国の皇族だ。芙蓉とて聞いているはずの話だろう。それなのに逆恨みで復讐の感情に囚われ、自分の都合の良いようにしか物事を見なかった。
「…………」
「お前も私の両親については知っているだろう。似たような境遇だ。ただ一つ、決定的に違ったのは父からの説明があったか否か、大切な時期に向き合ってくれたか否か、かもしれないな」
黒曜は成長してから母のことについて聞き、亡くなるまでずっと真剣に愛情を注いでもらっていたのだろう。そうでなければあのような笑顔は作れない。はじめて彼の笑顔を見た時のことを、蓮華は一生忘れないだろう。
そして芙蓉の父も、愛情は注いでくれてはいたはず。けれど母が後宮を追放された理由については説明がなかった……というよりも、話せなかったのではないか。復讐のためにここまでしたことから考えるに、芙蓉はとても母を好いていただろうから。
「お前の父が昔話していた。『妻のことを愛している。この気持ちは妻を亡くした今も変わらない。だが彼女は、陛下の恩情がなければとっくの昔に死んでいた。長く生きられた方だろう』、と」
「……お母様。亡くなる直前まで、ずっと誰かに謝罪していた。それは先帝陛下に対しての言葉だった? 見逃されたことで正しく罪を理解した可能性……陛下の恩情……これは、復讐にも、なっていない…………」
「芙蓉様」
「血筋。家紋、泥を塗らぬように……妃、プライド、潔く、憎悪、母……後悔」
「……芙蓉妃」
俯いたまま、小さな声で何やら呟いている。最初は長い文章だったが少しずつ単語の羅列に変わっていったような気がする。心配になって今度は蓮華が声を掛けようとすれば、それより早く芙蓉の方が顔を上げた。今までの不安定な様子は何だったのかと思うほど、しっかりした目付きで。
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