38 心揺れる秋の者
「まずは蟲毒について軽く説明しますね。蟲毒は簡単に言えば、人間に害を与える類の生物を集め、殺し合いをさせるものです。そして最後に残った一匹を最強の生物として神霊化し、対象の人物を呪います」
そうすることでたとえば自分の政敵だとか、憎んでいる相手を死に追いやることができる。……というのが、蓮華が調べた内容だ。ここまでは彼女達が用意してくれた蟲毒に関する資料にも同じようなことが記載されているだろう。
「……私も聞いたことがあります」
「わたくしも。皇后選定が解呪に関することである以上、どうしても目に入る情報ですわ」
「……っ」
「夢鈴様、どうかなさいましたの?」
大きく目を見開き、いきなりキョロキョロと何かを探す素振りを見せる夢鈴。その顔からは心配になるほど血の気が引いており、いつもの自信に溢れた振る舞いからは想像もできないくらい、焦った様子を見せていた。目には少し涙も浮かんでいる。
「まさか……あなたが陛下を……?」
「ち、違います! そうじゃなくて、嵐風は!? 数日前からあの子が見当たらないの……っ!」
雪璃の言葉を全力で否定する夢鈴。何でも名前を呼んでいるのに姿を表さないらしく、『蠱毒というのは人間に害を与える生物を使用するのでしょう!?』と悲鳴のような声を上げている。
言われてみればその通りだ。彼女の式神は毒蛇、つまりは人間に害を与える生物である。その上で行方不明となれば心配になる気持ちも理解した。けれどそれについては大丈夫。
「落ち着いてくださいませ。実は嵐風様、春麗宮の湖にいますの。近くには大きな木もあります。水辺と木、どちらも蛇が好むものでしょう? わたくしの記憶が正しければ秋紅宮にはそれらがなかったと思うのですが」
「……言われてみれば。最近暑くなってきましたし、そのせいかしら……」
『我も怪我ひとつなく涼んでいるのを見たぞ。秋紅宮と春麗宮は距離があるゆえ、声も届かなかったのではないか?』
「すべて把握した上で好きにさせているのかと楽しんでいる姿を微笑ましく見ていたのですが、一声掛けるべきでしたね。申し訳ありません」
主人が呼びかければ式神はすぐに姿を現すが、それはどこにいても同じというわけではない。これだけ心配しているのだ、蓮華と同じで命同然に大切な存在のはず。気遣いが足りていなかったと頭を下げれば、とんでもないと慌てて止められた。
「謝罪するべきはこちらですわ。嵐風が勝手を……」
「良いのですよ。これからも好きにさせて差し上げて」
早とちりしてしまって恥ずかしいです、と少し赤くなった頬を両手で覆う夢鈴。普段の腹黒もいいが、こういうところは本当にかわいがられるのだろうなと思っていると、早く話を戻してほしそうな雪璃が目に入ったので、こほんと咳払いをして再び席に着く。
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