33 隠し玉
『姿を消していたのにも関わらず、ハッキリと目が合った』
「……気のせいではないの?」
『ないな。わざわざ蓮華の足元にいた我に視線を向け、確実に認識していた。そのようなことは普通あり得ない』
たしかに、姿を消した式神を認識できるのは本来なら主人と式神本人だけのはずだ。それは便利なことだが、同時にとても危険でもある。実際、過去には姿を消した式神を使って暗殺を企てようとした者もいた。その対象は皇帝に限らない。式神も主人の命令は絶対ではないが叶えるべく動こうとするのが基本なのだ。
だから少しでも力のある者はそのような事態に備え、やりすぎなほどに護衛を強化する。蓮華は名を持つ一族、その上貴妃でありながらそのような『普通』から外れる数少ない例外だ。そしてその例外を、蓮華はもうひとりだけ知っている。
────四季の皇帝。つまり、現在この国で最も尊いとされる人物、華黒曜だ。
「何かの能力かしら。だとすればわたくしは聞いたことがない力よ」
『……やはり、その可能性が高いだろうな』
蓮華も黒曜も護衛がいないわけではない。ただ、このレベルの権力者ならばざっと三倍は抱えているだろう、という程度の数。
「わたくしは瑞家直系の『女性』で普通の権力者ではないからこの身一つで歩き回れるのだけど」
現に今、蓮華の傍にいるのは霜のみ。変装を解いて貴妃として歩いているのにも関わらず、護衛の姿が見えないどころか武器の一つも持っていない。
しかし黒曜もそれは同じだ。基本的に側近の黎邦と式神、そして剣一本身に着けているくらい。一国を率いる存在としてはあまりにも不用心ではないだろうか。
今まで疑問に思っていなかったことが、今更になって違和感でしかないことに気が付く。きっと黒曜は昔からああなのだ。だから誰もおかしいとは思わない。
しかも黒曜の所有する能力は『豊穣』であり、それは決して戦闘特化ではない。黎邦が護衛も兼ねているなどという話を耳にしたことはあるし、黒曜本人もかなりの凄腕剣士だ。それにしても。
「何をどう考えても、不用心でしかないわね……?」
『黒曜自身に何か特別なものがあるわけではない。……とすれば、他に何か隠し玉があると考えるのが自然だろうな』
「それが黎邦様であると?」
『あくまでも可能性の話だ』
何にせよ、すべては想像の域を出ない。側近として常日頃行動を共にしている黎邦が黒曜の隠し玉なのかもしれない、という意見は蓮華と霜で一致している。ならばいつか機会があれば、直接聞いてみるのもありだろう。
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