31 処刑台まっしぐら
気を抜けば射抜かれてしまいそうなほど、強い視線が頭上に突き刺さる。清夏宮の主が姿を見せたことで他の下女達も動きを止めて頭を下げたままで立っているが、恐らくは蓮華と芙蓉の会話に聞き耳を立てていることだろう。また妙な噂が立ってしまいそうな予感がした。
「さあ、答えてちょうだい」
「────芙蓉」
「……四季の皇帝陛下にご挨拶申し上げます」
「堅苦しいのはいい」
「承知致しました。お出迎えできず、申し訳ございません。ですが事前にご連絡をいただいておらず……本日はどのようなご用件でしょうか?」
まさか……否、『四季の皇帝』と呼ばれている時点で疑う余地もないが、彼こそなぜここにいるのだろうか。芙蓉ならまだ百歩譲って頷けるが、余程のことがない限りこのような場所に皇帝が赴くはずもない。
彼が味方ならば助かるが、そうでないなら今度こそ蓮華は詰む。全力疾走して逃げるか、それとも貴妃が行方不明だと霜に騒いでもらうか……とりあえず後者はなしだ。貴妃の行方不明など、どう解釈されるか分かったものではない。誰か姿を消す能力でも持っていないものだろうか……
「体調が少し回復したゆえ、お前に会いに来た」
「急に決まったことでしたので使いの者を送ることができず……何度も陛下をお止めしましたが、聞き入れてくださらなかったのです。申し訳ございません」
顔を上げることができないので確証はないが、この声はきっと禁色を持つ男……黒曜が最も信頼する側近でもある、黎邦だ。謝罪の言葉の後に『余計なことを言うな』という声があったので、この二人は蓮華が思っていたよりもずっと仲が良かったのかもしれない。軽口を叩き合えるのは良い関係を築けている証拠だ。
「あら、そうでしたの。陛下のお体については私も心配しておりましたので、回復の兆しがあるようで安心しました」
「……これは何をしていた?」
「恐らくは侵入者ですので問い詰めているところでした。私はこの宮で働くすべての者を覚えておりますが、この者の特徴は記憶にございませんので。お目汚し大変失礼致しました」
芙蓉の中で、もう答えが出てしまったようだ。それなら、いよいよ本格的にピンチ。ここからどう切り抜けるか、と考えを巡らせるも何も妙案が浮かばず、冷や汗が背を伝う。侵入者が侵入先の者へ良い影響を与えるはずもなく、四夫人相手でなければまだ希望はあったかもしれないが、このままでは処刑台まっしぐらだ。
ちらりと姿を消したまま蓮華の足元にいる霜へ視線を向ければ、彼は蓮華の命令を待っているようで、指示があれば何でもする、とでも言わんばかりの顔をしていた。
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