3 どちらも本当の気持ち
◇
「ようやく一息吐けるわ……」
「いえ、一息吐いている暇はないですよ蓮華様!」
「宴までまだ半日近くあるわよ?」
「何をおっしゃっているのですか。蓮華様の魅力を最大限に引き出して参加しなければならないのですから、今から準備してようやく間に合うくらいです!」
そちらこそ何を言っているのかと問いたい。やる気満々の侍女達には悪いが、蓮華はそこまでする必要はないと思う。このまま評価を上げ続けると皇后に選ばれてしまう可能性が高くなるのだから。皇后ではなく貴妃になりたいのなら、すべてにおいて二番目くらいをキープするのが最適。
今回の皇后選定の内容はまだ知らないが、日常的な部分も見られているはずだ。だからあまりやりすぎないでほしい、と侍女に告げる。
「……そんなに皇后になるのが嫌ですか? 蓮華様は皇帝陛下をお慕いしているのですよね?」
「ええ。暗い雰囲気になっていたのは気になるけれど、素っ気ない物言いの中に昔のような優しさが滲んでいるのが分かって惚れ直したわ。でもそれとこれとは別よ。黒曜様にはわたくしみたいに落ち着きのない女よりお似合いの方がいるはずだし」
眉を下げ、悲し気な顔をする侍女長は蓮華を皇后にと推しているのだろう。国母の器であると認めてもらえているのは嬉しい。他の侍女も同じ気持ちだろう。だからと言って『貴妃になる』という決意が揺らぐのかと問われると、残念ながらそうはならない。これは蓮華の人生を左右することなのだから。
ひとまず、今から半日もかけて準備して、そのまま息の詰まる宴に参加するなど論外なので、連日の馬車移動で疲れているからと仮眠の時間をもらうことにした。疲労困憊では戦ができぬ。
『蓮華、我はいつでもそなたの味方だ。黒曜と添い遂げるのが本当に他の妃で構わないのなら、我から言うことは何もない。しかし後悔だけはしてほしくないと言っておこう』
「……霜にはいくつかお仕事をしてもらうつもりだからよろしくね」
心配する霜の言葉には何も返さず、振り返って決定事項を伝えれば了承の意を示される。言葉は必要ない。蓮華の心は式神である霜が一番良く理解しているのだから。
皇后になりたくないという気持ちは本物だ。だが蓮華が黒曜に向けるこの感情も偽りではなく────
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