27 『明るく元気な女の子』
◇
「おはようございます!」
「あら、おはよう。あなた見掛けない顔ね。新入りかしら?」
「はい! 本日より、清夏宮の下女として働くことになりました。どうぞよろしくお願い致します!」
正しくは『本日より』ではなく『本日のみ』。というわけで今日、蓮華は予定通り清夏宮に下女として忍び込んでいた。芙蓉は蓮華同様、侍女の数が少ないので侍女に扮すれば一瞬でバレてしまう。しかし妃付きではなく、宮廷で雇われた下女は正確に管理できないほどの人数になる。つまり、良くも悪くも簡単に紛れ込めてしまうというわけだ。
「よろしく。私は淑妃様の宮で働く下女を取り仕切っている者よ。では早速だけど、あの辺りの植物の手入れをお願いするわ。今日は庭師が休みなの」
「分かりました!」
あの辺り、と言って彼女が指し示したのは例の花畑だ。姿を消して今も傍にいてくれる霜が先ほど教えてくれた。驚くほどに都合良く事が運んでいる。
下女としての蓮華のコンセプトは『明るく元気な女の子』だ。つまり、『お淑やかな貴妃』という仮面を思い切り剥しているだけ。それでも貴妃としての振る舞いは霜のお墨付きなので、こうして妃らしさのないテンションの方がバレないのは間違いない。
「ねぇ、霜。わたくしは運が良いと思わない?」
『たしかにな。ただ、あの場所を担当するのは蓮華だけではなさそうだ。気を付けろ』
「ええ」
倉庫に手入れ用のハサミや農薬等を取りに行き、清夏宮の門からは見えない場所にある花畑へ向かう。
四夫人は四季を司る存在でもある。禁色や宮の名がそれを思わせるのと同じように、庭園の植物もその象徴する季節のものばかりだ。今の季節なら最も華やかなのは蓮華の春麗宮だろう。華やかさを演出するため、美しい植物自体は季節問わず見ることができるけれど。
「たしか、森とお花畑の境目付近よね……」
同じ場所の担当であろう、他の下女に挨拶をしながら目的地へ足を運ぶ。そこでは遠くからでも分かるほど、全員大きな悲鳴を上げながら作業をしていた。芙蓉でなければとっくに叱られていると思う。彼女達は一体何をしているのか……
四夫人の宮の下女を任されたというのに、誇りやプライドはないのかと呆れた感情を持ちつつ、表面上は笑顔のままで彼女達に近付く。三……四人ほどだろうか。まだ蓮華の存在に気が付かない。
「おはようございます」
「きゃあああっ! ちょっと、こっちに来ないで……っ!」
「皆様おはようございます! いいお天気ですね! 何をなさっているのですか!?」
バタバタと、道具を持ったまま走り回って。蓮華の声掛けにも気付かず。
失礼だが、芙蓉は淑妃としてこのような状況を見逃して良いのだろうか? 身内だけならいざ知らず、自身が招いた客人にこのような姿を見られてしまっては淑妃の品位が落ちるだろうに。
「あっ、お、おはよう……!」
「今日は天気がいいでしょう!? だからこのエリア、いつも以上に虫が多くて!」
「毎日こんなに騒いでいるわけではないのよ!?」
……なるほど。蓮華が考えていた品位やら何やらは、彼女達も良く理解しているらしい。それなら我慢すべきと言いたいところだが、手を動かしているだけ偉いのかもしれない。蓮華に虫が嫌いな人の気持ちなど分かりはしないが。
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