23 妃達の噂話
◇
「────それでね、皇帝陛下は蓮華様を……」
「ちょ、ちょっと! 後ろっ!!」
「へ……あ、き、蓮華様!?」
何やら噂話をしていたらしい二人は慌てて拱手する。蓮華の目の前に、美しい女性のつむじが二つ。
身に着けている衣は珍しい色合いではないが、上質な布地なので四夫人の下の九嬪か、あるいはそのさらに下の二十七世婦の上位の妃なのだろう。蓮華の顔はまだ知らない者もいるはずだが、貴妃だと気付いたのは貴妃の禁色である薄紅色の衣を身に着けていたからだろうか。
「こんにちは。今日はいい天気ですね。お散歩中でしたの?」
「は、はい……」
「そうですか。お邪魔してしまって申し訳ないわ。顔を上げてくださいまし」
眉を下げ、おっとり微笑めば二人の妃はおずおずと顔を上げた。見覚えはない……が、やはり上位の妃だろう。かなり整った顔立ちだ。
「ところで、わたくしの名前が聞こえたのですが何のお話でしょうか?」
「あ……しっ、失礼致しました!!」
勝手にお名前を! と顔面蒼白になる二人だが、そこは気にしてなどいない。普通は許可なしに四夫人の名を呼んではならないが、他に誰もいないのなら何ら問題ないだろう。あまり規制しすぎるのも良くない。
「その、『皇帝陛下は蓮華様を皇后になさるのでは? 先日もお渡りがあったそうだし』、と……」
さすがは後宮だ。皇帝がいつどの妃の元へ通っているのか、すべて把握されている。鳥籠の姫達は常に娯楽を求めているため、ちょうどいい噂話のネタにもなっているのだろう。そして一番驚いたのが、今夜のお渡りの情報まですでに出回っているとのこと。恐ろしい話である。
ちなみに今夜皇帝が顔を出すのは春麗宮。これで三度目だ。何年も前の話とはいえ、入内前に会ったことのある蓮華は話しやすいらしい。ついでに、黒曜の口数が多いのは蓮華の前でだけだと彼の式神が教えてくれた。
「あらあら……わたくしの話をするのは構いませんが、それが他の四夫人の耳に入っては大変ですから、誰が聞いているか分からないような場所でその類の話をするのは控えた方がいいですよ」
「そうですね、気を付けますわ」
「あの、貴妃様。皇后選定が始まっているとのことでいくつかお伝えしたいことが。すでにご存知かもしれませんが、淑妃様はすでに多くの情報が集まっているようです。宮廷内で働く者からの支持が厚いみたいですわ。徳妃様は下位の妃や官吏を中心に、積極的に声を掛けて選定に必要な情報を探っていますね。私達もお話ししました」
「賢妃様は宮殿の書庫に頻繁に出入りする姿を多くの者が目撃しているようです。私共は皇后選定の内容を知りませんので、具体的にどのような情報を収集しているのかは不明ですが……」
それは本当だろうか。霜伝いで四夫人の気になる情報を重点的に耳に入れるようにしていたが、思えば他の妃が何をしているかは探っていなかった気がする。いや、他の妃のことよりも黒曜の呪いを解呪することで頭がいっぱいだった、と言った方が正しいだろうか。
普通に考えれば彼女達の行動に重きを置いた方が効果的なのに……致命的なミスだ。やはり、何をするにも焦りは禁物ということだろう。
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