2 四季の皇帝
そんなわけで数日後、蓮華は人生二度目の宮廷に来ていた。四夫人の中では蓮華が一番最後に入内するらしいので、きっと『皇后選定』もすぐに始まることだろう。そこで『貴妃』に選ばれなければもう二度とここから出ることはできない。
名のある家の出である妃の入内ということで、宮廷の門から後宮までの道には妃や下女、宦官に武官に文官など、宮廷にいるほぼすべての人々が集まって頭を下げている。
相変わらず煌びやかな場所だ。そして鳥籠のよう。そんな心の内を隠して得意の笑顔を浮かべた蓮華は、馬車から降り、出迎えるべく門の前で待機してくれている皇帝の元へ向かう。
「────貴妃、瑞蓮華でございます。四季の皇帝陛下にご挨拶申し上げます」
「久しいな。息災であったか?」
「はい。再びお目に掛かれて光栄に思います」
「そうか。……顔を上げろ。春麗宮に案内する」
ゆったりとした動作で宮廷に足を踏み入れた蓮華は、門をくぐってすぐの場所で拱手した。このお方が我が瑞朱華国の皇帝陛下であられる華黒曜様。四夫人は四季の色を持っているため、その主である皇帝は『四季の皇帝』と呼ばれることもある。
蓮華は幼い頃、父に連れられて宮廷を訪れた。その時に少し黒曜と話をしているので、今日は初対面ではない。今の様子だと黒曜は蓮華のことを良く覚えているらしい。蓮華はこの数年でどこか変わっただろうか。自分では分からない。しかし黒曜は昔と全然違った。
「蓮華、今宵はお前の歓迎と四夫人が揃ったことの祝いを兼ねて宴が開かれる」
歩きながら一瞬振り向いた黒曜からは何の感情も窺えない。蓮華の式神である霜の毛色とよく似た銀髪に、青い瞳が映えている。左目の下の泣きぼくろは『国内最高峰の美貌』と言われる彼の美しい顔立ちに色気を足す大切な材料だ。
蓮華は現皇帝である黒曜に一目惚れしている。だから以前会った時とは違い、何か大きな闇を抱えていることにもすぐに気が付いた。あんなに魅力的だった笑顔を失っているだなんて……
でもそれを指摘するのは蓮華の今すべきことではない。見定めるように一言一句、一挙手一投足に至るまで観察されているこの状況で、後々面倒なことにならぬよう貴妃としての品格を示す方が先。妃の評価は家や皇帝の評価となる。
「ええ、聞き及んでおります。妃が全員揃うとのことで、大変盛り上がることでしょう」
「そうだな。宴には式神と侍女長のみを連れて参加するように」
「承知致しました」
宮廷の敷地内にある後宮。位によって部屋の質に差があるが、四夫人は宮を丸々ひとつ与えられる。春の色を持つ蓮華は春麗宮だ。道中、一際目立つ三人の妃がいた。他の妃とは格が違う。敵意の籠った視線を向ける彼女らは間違いなく四夫人の淑妃、徳妃、そして賢妃だろう。
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