19 お飾りではなく
◇
「お待ちしておりました、黒曜様」
式神の霜を含む侍女長以外を下がらせた中、美しく着飾った蓮華は春麗宮の玄関口で黒曜を出迎えた。黒曜も蓮華と同じで湯上りらしく、顔の血色が良かった。呪いにも言えることなのか分からないが、体調を崩している時は暖かくして過ごすのが一番だと思う。
「部屋までご案内致します」
「ああ」
……やはりそうだ。今宵は閨事のために来たわけではないだろう。それならと思い、端の方で控えていた侍女長に指で合図する。今のは軽い酒を持ってくるように言ったものだ。蓮華の立場上、直接声を掛けられないタイミングなど山ほどあるので、こうして声に出さなくても意図が伝わるようにしていた。
一礼してその場から去った侍女長を横目に、黒曜を宮の中へ招き入れる。春麗宮は代々貴妃に受け継がれている場所なので黒曜も訪れたことはあるだろうが、妃によって内装が大きく変わるので多少の物珍しさはあるのではないだろうか。……すぐに出て行くつもりなので蓮華の私物は少ないが。
「どうぞこちらです」
「失礼する」
「今、侍女に軽いお酒を持ってくるよう頼んでいますので少々お待ちくださいませ」
「ああ。……式神がいないな。情報を共有しておきたいだろう。今日は呼んで構わない」
「そうですか? ではお言葉に甘えまして……霜、おいで」
別室にいたはずだが、式神と使役者は繋がっているので呼べば基本すぐに姿を現す。たまに無視されることもあるけれど。
黒曜の式神は見当たらないが、先ほど一瞬虚空を見ていたので傍にはいるのだろう。
その後も一言、二言会話をしていると侍女長が酒を持って部屋に入ってきた。退出するのを確認し、黒曜のグラスに注ぐ前に毒見として蓮華が一口飲んでみせる。
「……最初の閨で悪いが。今日は情報収集のために来た」
「呪いの件でしょうか?」
「そうだ。今までは呪いのことを伏せていたゆえ、目的は言わずに妃から情報を集めていたのだがそう簡単にはいかない。何とか時間を作って数日に一度は妃の元へ行こうとしているが……今日もまだ公務が残っているので話が終わり次第宮殿に戻る予定だ。そのつもりで」
「承知致しました」
つまり、万が一にもお手付きになることはないから、期待はするなと最初に釘を刺してくれているのだろう。黒曜は今年で二十歳になるはずだが、こんな若い頃から公務に追われているだなんて、一国を率いる立場というのは本当に大変なものだ。どうかお飾りではなく、公務の手助けとなれる皇后を迎えてほしいものである。今代の四夫人は全員優秀なようなので心配はいらないかもしれないが……
ご覧いただきありがとうございます!
よろしければ感想、レビュー、ブックマークや広告下の☆☆☆☆☆で評価していただけると励みになります!




