18 恋い慕う者の前では
◇
「蓮華様、今夜皇帝陛下のお渡りがあるとのことです……! 磨きましょう!!」
「……いきなり何の話をしているの?」
「言葉通りです!」
黒曜が去った後、蓮華もそろそろ春麗宮に帰る旨を伝えたところ、本日のお茶会はお開きになった。蓮華としては続けてくれても良かったのだが、いい時間だし、とのこと。それがお昼過ぎの話。
お茶会では芙蓉が得意としている書を披露してくれたのだが、話に聞いていた以上に美しい字だった。それを見て少し羨ましくなったので、春麗宮に帰った蓮華はずっと書写をしていた。……ほんの僅かな会話の間に確認した、黒曜の呪いについて考えながら。
能力を使ったのだ。『鑑定』という。鑑定と言えば最初に思い浮かべるのは宝石などの真贋だと思うが、この能力は生き物の健康状態を確認できるものである。そして呪いを掛けられているだろう、と聞いた黒曜はたしかにそのように見えた。あの感じだとこれまで通り一気に悪い方向へ進むことはないと思うが、昨晩のように短時間の体調不良を繰り返すことになるだろう。
「お渡りって……わたくし、昨日入内したばかりなのだから気に入られるも何もないのでは……?」
だとすれば貴妃、瑞家出身、強力な式神を持つ人間。このあたりを考慮しての政治的な面で面倒なことにならぬよう、配慮しているのかもしれない。
けれども聞いた話によれば黒曜のお渡りは位問わず滅多にないらしい。単純に激務で妃の元に行く時間を作らなければならなくとも難しいのだろうが、そのことに不満を覚えている妃も少なくないはずだ。九嬪以下の場合、一度も直接顔を合わせたことがないという妃も存在するだろう。
そんな中で、よりにもよって蓮華を選んだのか。いや、好いている相手に会えるだなんて、これほど嬉しいことはないと歓喜する心もある。あるが、入内早々噂の中心になるのは……
「他の妃に殺されないかしら」
「え!? どなたかの恨みを買ったのですか!? 蓮華様、お淑やかに見えてたまに暴走する方ですものね!? 霜様、ちゃんと止めてくださいませんと……!!」
『…………』
「あなたちょっと、失礼でしてよ! わたくしのことを一体何だと思っているのかしら!?」
「瑞領一のお転婆娘ですっ!」
「否定できないわ!」
純粋な目をして食い気味に言う侍女に、蓮華も同じ勢いで言葉を返す。こればっかりは否定できない。蓮華の惨敗である。だとしても『瑞領一』はいささか大袈裟ではないだろうか? せいぜい『瑞家一』だろう。というか、一応は貴妃の身なのでそこまでお転婆と言われると否定しなければならない気がする。蓮華の沽券に関わるゆえ。
『……蓮華、チャンスではないのか?』
「ええ、黒曜様をじっくり観察できると思えば……まあ……」
多少恨みを買ってしまってもいいかもしれない。それに殺される前に後宮から出ればいいだけの話だ。
ひとまず侍女の言う通り、この身を清めておこう。お渡りと言っても閨事は目的ではない気がするが、そうでなくとも好きな人の前では綺麗でありたいものだ。立ち上がった蓮華は、侍女に『実家からお気に入りの香油を持ってきているわ』と声を掛けてから浴室へ向かった。
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