16 口喧嘩は絶えないが
「……わたくしの式神なのですが」
「? はい」
「ご紹介します。緋月」
『二人の話も聞かせてほしい』。そう言って微笑みかけた蓮華に応えたのは意外にも雪璃の方だった。いや、夢鈴も何か言おうとしていたようなので、雪璃の方が口を開くのが早かったと言った方が正しいだろうか。
本当に僅かではあるが、昨日出会ってから初めて笑顔を見せた雪璃は『緋月』と誰かの名前を呼ぶ。直後に現れたのは透き通るような長い白髪に、限りなく薄い紫色の瞳を持つ少年。額には月の紋様があり、式神だと知らない者が見れば神の御使いだと信じてしまいそうな容姿だ。
『何の用? 俺、今寝てたんだけど』
「それは悪かったわ。でも何の用、とはご挨拶ね? 用がないと呼び出してはいけないのかしら」
……態度が悪い。そして早速口喧嘩をしている。ただ、視線からお互いへの愛や信頼も当然のように伝わってくるので、これは『喧嘩するほど仲がいい』というやつなのだろう。
「あなたをこの方々にご紹介しようと思っただけよ。これから長い付き合いになるのだから、人型の緋月と共にいて妙な誤解をされては堪らないもの。それに式神同士通ずるものもあるのではなくて?」
「雪璃様の式神が人型だったとは……珍しいですね!」
「あら? 皆様は入内して時間が経っていると思うのですが、雪璃様の式神をご存知なかったのでしょうか?」
『式神同士では面識あったよ。その他で俺のことを知ってるのは雪璃だけ。皇帝も知ってるかもしれないけどな』
どうでもいい、とでも言いたげだが律儀に答えてくれる緋月。雪璃の膝の上に座り、足を組んで茶菓子を食べる姿は本当に神のようだ。主に、態度の面で。
「緋月」
『ん、これ美味いな。どこの?』
「わたくしの領地で有名なお菓子ですよ」
『ふぅん……もうないの?』
「緋月! いい加減になさい! 失礼致しました、蓮華妃」
「ふふ、お気になさらず。あなた、これがお気に召しましたの? では後ほど冬蘭宮に届けさせましょうね。どうぞお二人でお召し上がりくださいませ」
蓮華を嫌っているとはいえ、さすがにこれはアウトだと判断したらしい雪璃に慌てて謝罪される。だが本来、式神は誰かに対して敬意を払う必要がない。けれど主人に対して何かしたからと言って、主人より上の身分の者に仕返しをして良いかと言われたらそれはまた別の話になるので、式神を上手く躾けるのも主人の仕事だ。この程度なら受け入れられることが多いだろう。
「いえ、お気遣いなく……」
すっかり低姿勢になってしまっている。初対面から気の強さが伝わる接し方ばかりだったので、今更このような感じになるとこちらの調子が狂ってしまいそうだ。
何となく分かってしまった。緋月がこんな感じだから二人は口喧嘩が耐えないのだろう。
『えぇー……せっかくくれるって言ってくれてるんだし、貰っちゃえば良くない?』
「そうですね。では芙蓉様と夢鈴様にもお渡ししましょう。うちの茶菓子は美味しいでしょう? 未開封の物をお届けしますので毒についてはご心配なく。今日は楽しませていただいておりますのでそのお礼ですわ」
それなら雪璃様も受け取ってくださいますよね?
いいことを思い付いた、とばかりに手のひらを合わせ、笑顔で提案する蓮華。急に巻き込まれた芙蓉と夢鈴は嫌がるどころか目を輝かせた。
緋月だけでなく自分以外の四夫人にも期待の視線を向けられた雪璃は、観念したように頷いた。
「重ね重ね、お気遣い感謝申し上げます……ありがたく頂戴しますわ」
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