10 難儀な立場
◇
「おかえりなさいませ、蓮華様」
「ただいま。わたくし達四夫人が宴の会場に残された理由は皇后選定の話をするためだったみたい。大方予想通りね」
「私達にそれを言ってもよろしいのですか?」
「問題ないでしょう。どうせ近いうちに知れ渡るわ。瑞家の政敵や他の妃に何かされる可能性があるから、注意して過ごすように。今日はもう休むから湯浴みの準備をお願い」
「承知致しました」
春麗宮に帰った蓮華は出迎えた侍女達に必要事項のみ報告し、さっさと寝室に入って行った。今日は皇帝のお渡りがあるとは聞いていないので寝てしまっても構わないだろう。それに黒曜は呪いの影響で体調を崩しているらしい。そんな状況ならたとえお渡りの予定があっても中止になるに決まっている。よって、この後はようやく本当の意味で休息が取れるというわけだ。
「はぁ……霜~っ!」
『よく頑張ったな、蓮華。誰が見ても淑やかな妃だった』
「良かった……霜が言うのならきっと間違いないわ! 堅苦しすぎて息が詰まるかと思ったけれど、何となく感覚は分かったわ。この調子でやればいいのね」
寝台に腰を掛け、霜と二人きりになった蓮華はスーハーと大きく深呼吸しながら白虎の体に顔を埋めた。癒しを求める蓮華に応える霜は、精一杯貴妃に相応しい振る舞いをした彼女を労うように尻尾で頭を撫でる。今までの妃らしい姿だけなら蓮華をお転婆扱いする者はいないだろうが、こうして自分より遥かに大きい体を持つ式神と全力で戯れている姿を見れば、何となく『お転婆妃』という秘めるべき肩書にも納得がいくのではないだろうか。
「四夫人について、一度分析しておきましょうか。霜も全員見ていたのよね?」
『ああ。中々に食えない者もいそうだったな』
「後宮の妃だものね。まず、淑妃の芙蓉様はとても優しく穏やかで誰にでも好かれそうなタイプだったわ。けれど本気で皇后の座を狙っているのは分かる。一瞬だけそんな雰囲気を感じたから」
黒い毛並みにエメラルドの瞳を持つ高貴そうな猫と一緒にいた。あれが芙蓉の式神と考えていいだろう。蓮華と話している時も終始にこやかだったが、霜に言った通り本気で皇后の座を狙っているのは分かった。つまり、心の内では何を企んでいるか分からないというわけだ。とはいえ、それはどの妃も同じことなので特に気にすることはないだろう。
「でも少し仲良くなれそうな気がするわ。明日のお茶会でたくさんお話をするでしょうし、その時に仲良くなれたらいいのだけど」
『ライバルと馴れ合うのか?』
「馴れ合うというほど距離を詰めるつもりはないけれど、味方は作っておくべきだと思わない? 芙蓉様のお好きな物は何かしら。明日の手土産も迷うわね……」
芙蓉の好みが分からないなら能力、または式神に関する物を手土産にするのもありだ。芙蓉は他の妃と違って『強化』という能力を持っていることを明かしている。しかし彼女の場合は能力を使うのに必要な物はないし、式神の好む物も知るはずがない。よって、結局は無難な茶菓子あたりを選ぶことになるだろう。
「瑞家からの手土産なら髪飾りも良いかもしれないけれど、妃が妃に渡すとなるとちょっとね……」
芙蓉は蓮華と違い、四夫人の冠とは別で簪などを身に着けていなかった。だから一瞬実家から持ってきた簪を渡そうかと思ったが、場合によっては妙な勘違いをされてしまうだろう。妃同士というのは何とも難儀な立場だ。正直に言って面倒くさい。かと言って何も持たずに会いに行くのも失礼というものだ。
『他の四夫人について分析する』という当初の目的を忘れうんざりしながら悩む蓮華に、論点を戻すべきだと判断した霜は『話を戻そう』と声を掛けた。
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