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魔法学校のデュラハン  作者:


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第3話 ガルドの試験

 

 黒牙隊に拾われて、半年。

 季節は何度も移り変わり、焚き火の匂いも、風の冷たさも、

 わたしにとっては“家”の匂いになっていた。


 けれど――その日、

 ガルドさんの声には、いつもと違う鋭さがあった。


「リア、来い。今日は“試験”だ。」


 試験。

 その言葉に、わたしの胸がきゅっと縮まる。


 野営地の奥、夜明け前の森。

 霧が低く流れ、地面は朝露に濡れていた。

 隊の者たちが見守る中、

 ガルドさんがゆっくりと剣を抜く。


「お前が、黒牙隊の一員としてやっていけるかどうか。

 その目で――いや、“感覚”で、証明してみせろ。」


 わたしは、首のない頭で小さく頷いた。

 鎧の中、胸の奥で鼓動が鳴る。


「……はい。」


 ガルドさんが、霧の中を一歩踏み出す。

 その足音が消えた瞬間、世界が静止したように感じた。


(……見えない。でも、感じる。)


 風の流れが変わる。

 木々の葉が、一瞬だけ右に揺れた。


 ――くる。


 わたしは足をずらして横に跳ぶ。

 直後、霧を裂く音と共に、剣が地を走った。

 ほんの数センチ前、ガルドさんの一撃。


「おお……」

 誰かが息を呑む声が聞こえた。


「なるほどな。見えてるな、リア。」

「……風が教えてくれました。」


 わたしは両手に短剣を握り、再び魔力を流す。

 空気の粒が、光のように頭の中に広がる。

 木の枝、岩、風の流れ、草の揺れ。

 すべてが、ぼんやりとした輪郭を持って動いていた。


(これが、わたしの“目”。)


 ガルドさんの気配がまた消える。

 次の瞬間、背後から重い圧。

 反射的に腰を低くして身をひねる。


 剣がわたしの肩を掠め、鎧の外殻を削った。

 金属が鳴る音が、森に響く。


「悪くねぇ。」

「……ガルドさんの、足音が、いつもより軽かったです。」

「おう、鋭いな。お前、だんだん“目”が良くなってる。」


 試験は続いた。

 十度、二十度。

 そのたびに霧が裂け、魔力が流れ、

 息が荒くなる。

 けれど、怖くはなかった。


(わたし、ちゃんと戦えてる。見えてる。首がなくても。)


 最後の一撃。

 ガルドさんが正面から踏み込んできた。

 わたしは反射的に腕を交差して受け止め――

 衝撃が全身を貫いた。


 ドン、と土を踏みしめる音。

 そして、静寂。


「……ここまでだな。」


 剣を納めたガルドさんが、

 霧の中でゆっくりと笑った。


「合格だ、リア。」

「……わたし、本当に……?」

「ああ。お前はもう、黒牙の一人だ。」


 その声が、あたたかく胸に染みた。


 仲間たちが拍手を送る。

 バロスさんが「俺より強ぇんじゃねえか!」と叫び、

 ギュスターヴさんは涙をぬぐっていた。


 ガルドさんは焚き火のそばに座り、

 夜明けの光を見ながら、ぽつりと呟いた。


「リア。いつかお前が首を見つける日まで、俺がその首代わりだ。」


 わたしは静かに笑った。

 首がなくても、笑える。

 声が、ちゃんと震えて、心が熱くなる。


「……はい。ガルドさんの声が、あるので……大丈夫です。」


 蒼い焔がまた揺れる。

 黒牙隊の笑い声が夜風に溶けていった。


 その夜、わたしは初めて、

 “守られるだけの存在”ではなくなった。


 ――首をなくした少女が、

 “戦う騎士”になった日の物語。




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