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魔法学校のデュラハン  作者:


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1/10

プロローグ 首を落とした日

 

 ――水の音がした。


 目を開けた瞬間、世界が歪んでいた。

 空も地も光も混ざりあい、泡のように揺れている。

 落ちる、沈む。

 それでも確かに、足が地を踏んでいた。


 ……おかしい。

 視界が低い。

 呼吸ができない。

 それに、体が――軽い。


 リアは震える手を伸ばした。

 けれど、その指先が触れたのは首のない自分の身体だった。


 理解が追いつかない。

 けれど、体は動く。

 魔力が血のように流れ、心臓の代わりに青白く脈打っている。


 ――首が、ない。


 音にならない悲鳴を飲み込んだそのとき。

 森の向こうから、鉄を踏む音がした。


 ⸻


 霧の中から現れたのは、黒い鎧をまとった男。

 鋭い蒼炎のような魔力を纏い、金色の瞳がリアを射抜く。


「……なんだこりゃ。嬢ちゃん、首がねえじゃねえか」


 リアは後ずさる。

 声が出ない。

 けれど、助けを求めるように手を伸ばした。


 男は一瞬、信じられないような目をしたが、

 次の瞬間、豪快に笑った。


「ははっ、いいじゃねえか! 生きてんなら上等だ!

 首なんざ、あとで拾えばいい!」


 リアは戸惑いながらも、その声に少しだけ安堵した。

 男は首を鎧の袋に包み、リアの体をひょいと抱え上げる。

 火照ったように蒼炎が足元を包み、地を滑る。


「名は?」


「……り、リア……です」


「リアか。俺はガルド。ガルド・ヴァルクスだ。

 黒牙隊の団長やってる。今から、お前はうちの隊員だ。」


「……たい、いん?」


「そうだ。首がなくても、歩けるんなら十分だ。」


 霧の中、蒼い焔が遠ざかる。

 背中に感じる熱と、初めて知る安心の匂い。

 首をなくした少女は、その日、生まれ変わった。


 ――黒牙隊のリア・ヴァルクスとして。


 ⸻


 同じ頃。

 王都ルーミエラの夜。

 高塔の最上階、月光を透かす硝子の棚の中に、

 一つの“首”が静かに横たわっていた。


 閉じられたまつ毛、薄く開いた唇。

 まるで眠る人形のように、美しく整っている。


「……綺麗だな。」


 青年は淡い笑みを浮かべ、硝子越しにその頬をなぞった。

 白銀の髪が揺れ、黒衣の裾が風に鳴る。


「お前、どこの子だ?

 こんなに綺麗な首、そうそう落ちてない。」


 その声は柔らかく、それでいて冷たかった。

 彼の名は――エルヴァン・ノア・セレノス。

 王国魔法師団の副長にして、

 “死者の美”を収集する男。


「また会おう。……首のない少女。」


 硝子の中、リアの首が微かに光を放った。

 それはまるで、彼女の魂が呼応しているようだった。




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