5 領主ベイル・ハルミトン
森から帰ってきたクリエたちは急いでベイルが住む屋敷へと足を向けた。
すで日は落ち、夜になっている。
ジオノーシュの中央付近にあるベイルの屋敷は、他の建物とは違って一際大きく、その装飾も派手で見つけやすい。
謁見の間でベイルを待っていると、どこか怠そうな気配を漂わせた男性が入って来た。
腹の出た体に、黒髪の短髪、口髭を生やしている。
重い動作で椅子に座ると、ニールたち見る「ベイル・ハルミトン」だった。
「こんな夜更けに何の用だ。下らん事なら許さんぞ」
いかにも横柄で人を見下す視線がクリエたちを見据えている。
クリエたちが自己紹介すると、流石に世界神の前では委縮するのか、服を整えると背筋を伸ばして椅子に座り直した。
そして、ニールがレムルに言われた事を伝えると、明らかにベイルは狼狽する。
「な、なななんだそれは! 宣戦布告ではないかっ!」
「落ち着いて下さい父上。約束の時間までに元凶たる人物を差し出せばいいのです。それで何か知っている事はありませんか?」
「……そんなの知っていたらとっくにどうにかしておる。流石に世界神といえど、これはやりすぎなのではないか? 陛下に報告し、早急に対策をお願いせねば。最悪、事を構える事になるかもしれぬ」
「父上! まさかレムル様と戦うなど思ってはいませんよね!」
「相手がその気なら仕方ないのではないか?」
口髭を触りながら、ベイルが余裕の表情で言う。
それ以外の全員が呆れた顔をし、ドレイクが口を開いた。
「あの、ハルミトン公爵閣下。申し訳ないですが、陛下は協力しないと思います」
「ん? 貴様は確か王都から出向中の役人だったな? それはどういう事だ?」
「世界神様たちの力は一国がどうこう出来るモノではないからです。王国が滅びるくらいなら、街や領地をを明け渡す方を選ぶでしょう」
「むぅ……」
「それに、今回の件は陛下の耳にすでに入っております。時間制限も設けられた今、早くどうにかしないと、王都から王直属の特殊部隊が来る可能性も」
「そ、それは困る! 特殊部隊の捜査なんて来られたら汚点だ! それに奴らは血も涙もないと聞いてる……ええい、分かった! 私の方でなんとかする。お前たちはもう下がれ!!」
狼狽したベイルが冷や汗を掻きながら言う。
目の前に神が居る事など、すでに頭にはないようだった。
「ハルミトン公爵閣下、早くお願いします。我々は元凶である犯人を見つけないといけないのですから」
念を押すようにドレイクが言う。その言葉を聞いたクリエは小さく笑った。
「なるほど、そうだね。結局はこうなるわけだ。今回の依頼人は良く考えてるね……ミヨン」
「そうだな。少々気に入らんが、今回はそいつの策に乗るとしよう。ここの旨い飯が食えなくなるのも困るしな」
クリエとミヨンの会話を他の者は不思議そうに聞いてた。
「それじゃあ、僕たちは宿に帰るよ。もう遅いしね」
わざとらしい欠伸をクリエがすると、ミヨンたち三人を連れて謁見の間を後にする。
残されたベイル、ニール、ドレイクは去って行くクリエたちの後ろ姿を呆然と眺めていた。
「……」
ただ一人、ドレイクの瞳だけは、いつもと違う鋭さがあった。




