終 創造主たちのメタい話
外から音楽祭の陽気な曲が流れているホテルの一階。
依頼も無事に終え、朝食を食べ終えたクリエたちは食堂で食後の飲み物を楽しんでいた。
そこには休暇を取ったリゼの姿もあり、デセミアはすでに一人で祭りへと繰り出している。
「今日はどこへ行きましょうか? こことかは、なんと40人くらいで一組のアイドルグループが居るようですよ」
ウィルが街中に配られている様々なチラシなどを見ながら言った。
「アイドルもこう見るとホント増えたな」
「新しい職業って不安もあるけど、夢があるのもね」
「それは先達である、カレン様の影響も大きいでしょう。世界は日々新しい物を作りながら進歩しているという事です」
クリエ以外はわいわいと音楽祭を全力で楽しむための算段をしている。
「……」
ただクリエだけは、二階にある一室の扉をじっと凝視していた。
やがて立ち上がると、みんなに声を掛ける。
「僕はちょっとこれから人と話をして来るから、戻って来る前に決まったら呼んで」
「知り合いでも来てるのか?」
ミヨンの問いに、クリエは笑顔で二階にある一つの扉を指差した。
「うん、そうなるね。じゃあ行ってくるよ。何か用事があったらノックしてね」
クリエは手を振ってミヨンたちと別れると、ゆっくり歩きながら二階にある一室の扉に手を掛ける。
******
クリエが扉を開けた瞬間、その一室は異世界だった。
オフィスデスクの上にはデスクトップパソコン本体とキーボードにモニター。
本棚には数々の漫画や小説に参考書が、そして一つある窓の外には高層ビルが立ち並び、車や電車の音が聞こえる。
「やぁ、お邪魔するよ。創造主さん。最後に僕も創造主らしい事をしに来たよ」
扉を閉めると、クリエは誰も座っていないキャスター付きの椅子に座った。
目の前には電源の付いたモニターがあり、文字が映し出されている。
「この物語はここでおしまい。お別れを言い来たよ。ここからはお互いが別の道を行くんだろう?」
モニターに向かってクリエが話しかけると、それに答えるようにキーボードがカチカチと音を立て始める。
『……』
「そうだね。本当はまだ話をたくさん考えていたよね? エルフの国とかリゼが使徒になる話。アニスとウィルの出会いに、レテリアに愛の世界神、最終的にはミヨンたちが神になって命を懸けて世界を救う。そんな話が」
『……』
「でも特に最後の重い話は、作品の当初の考えを変えちゃうね? だってあらすじに『だらっと生きる』とあるに全然だらけてないもの」
『……』
「分かってる。これは考えていた数あるラストの一つ。でも、今回はこれで終わり。理由はまぁ……いろいろだね」
『……』
「確かに何かを想像するのも創造する事も難しい。でも、自分以外の誰かに認められるのはもっと難しいね。そして自分自身が納得する物を作る事も」
クリエが文字と会話をしながら笑った。
『……』
「ん? ここで終わるのは気が重いって? それは仕方ないよ。それが君の選んだ終わり方だからね。責任は取らないと。だから今回のタイトルは『創造主は後始末をします』なんだよ」
『……』
「僕には仲間がいるけど、君はどうだろう? 分からないけど、頑張ってね。だからクレームとかの後始末はお任せします」
まるでモニターから重い溜息がクリエには聞こえるようだった。
その時、扉がノックされミヨンたちの声が聞こえる。
「おーいクリエ、まだ話は掛かるのかー?」
「クリエ様、今日の予定はもう決まりましたよ」
「珍しい屋台や美味しい地酒もあるみたいだし、早く行きましょー」
「お金の事は心配なさらなくてもいいですからね。わたくしがおりますので」
「……もうすぐ終わるから待ってて。すぐに行くよ」
クリエの答えを聞いて、扉からミヨンたちの気配が遠く。
「そろそろ本当にお別れだね」
クリエは椅子から降りて立ち上がり、そしてモニターを見つめた。
「最後に言わないといけない事があるよね。ここに居るかも、見ているかもしれない誰かに言う事が」
クリエの言葉にキーボードがゆっくりと音を立てて押され、モニターに文字が表示される。
『ありがとう』
「そして、バイバイ」
最後に笑顔でクリエが締めると、振り返る事なく部屋を出て行った。
外からはクリエたちの楽しそうな声が聞こえてきたが、それもすぐ二度と届かない場所へ遠ざかる。
そして静かになった部屋のパソコンの電源が自動的に落ちると、その部屋の存在は誰にも知られる事なく、ひっそりと消えて行った。
~ 創造主は後始末をします。 完~




