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世界の創造主は、仲間達と問題の後始末ばかりします。  作者: 灰色
依頼3 音楽祭の後始末をします。
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5 アニスの感傷

 クリエのどこか有無を言わさない迫力の笑顔に、アニスは観念すると部屋に入れた。


「良さそうにワインがあったから持って来たよ。今開ける?」

「ありがと。今はいいわ。昼もさっきも飲んだしね」


 アニスはクリエからワインを受け取ると、近くのテーブルに置く。

 クリエはベッドに座ると、横に来るようにぽんぽんと叩いた。

 それにアニスは素直に従って座ると、クリエがアニスをじっと見つめる。


「話を聞きに来たよ。何かあった?」

「……少し昔を思い出したの。クリエと会う前。どうしうようもう無いくらい、腐ってた自分を」

「それはカレン。いや、モフトに会ったからかな?」

「どうしてそれを……」


 不意に核心を突かれ、アニスは驚いた表情になる。

 そんなアニスの手をクリエはそっと握った。


「世界神は思想神の事は分かるんだよ。いつ、どこで、どんな想いで生まれたのか。僕はアニスの出身国も知っているからね。すぐにピンと来たよ」

「なるほど。最初からバレてたのね……モフト様が生きていた事は嬉しかったけど、名前を変えて別人のようだったから驚いてしまって」

「確か戦争が終わった後、イルワースとレスワースはスレイル共和国になったんだっけ?」

「そう。戦争の終わりは呆気なかった。あれだけの死人を出しておきながら、二つの国で同時に起きたクーデターであっけなくね。まぁ、私たち狂戦士も少しは関与してたんだけど」


 アニスは深い溜息を吐くと、暫く無言だったがやがて重い口を開いた。


「戦争を声高々に煽っていた人たちは処刑され、二つの国は手を取り合う道を選んだ。そして、平和になった国に私たちの居場所は無かった……やがてモフト様もいつの間にか居なくなった」

「心配してたんだね?」

「あの方は、いつも死者とそれに悲しむ人々に寄り添ってくれたわ。言葉を交わした事はなかったけど、歌と音楽だけで十分だった。でも急に居なくなったから、ずっと心配してたの」

「誰かに伝言とかはなかったの?」


 アニスは首を横に振る。


「本当に突然だったわ。探したくても私も国も自分の事で精一杯で余裕がなかった。こんな薄情じゃ捨てられて当然ね。会えて嬉しかった。前とは違って生き生きとしてて……でも」


 目を伏せ、悲しげに言葉を続けた。


「モフトはもう居ないって言われたわ。なんだが、少し悲しくなっちゃってね。モフト様なりに何かあったんだとは思うけど、こう昔の自分たちも無かった事にされたみたいで。ホント勝手よね」

「どっちも勝手なんだよ思うよ。でも、仕方ないんじゃないかな。きっと、あの時の国の人たちはみんなが自分の事で精一杯だったからね」

「……そうね。言い訳みたいだけど、本当に精一杯だった。自分以外の事は考えられないくらい」


 アニスは不安げに言うと、クリエを抱き締めた。


「ごめん……どうしよう。凄く寂しい……なんでだろう」


 涙声のアニスに、クリエもアニスを抱き締める。


「なぜ謝るの? 僕はそのために来たんだよ。アニス、我慢しなくていいんだ。君はもう一人じゃないんだから、悲しい事も分け合おうね」

「っ! クリエ……」


 感極まったアニスがクリエをそのまま押し倒した。

 アニスの瞳からは涙が流れクリエの顔に当たる。そんなアニスをクリエは優しく見つめていた。


「大丈夫、僕は何も言わずに居なくなったりはしないからね」


 そしてクリエは人差し指を顔の前に差し出すと、アニスと同じような魔法の血が指先から浮き出て宙に止まる。

 それに答えるように、アニスも人差し指から血を出した。

 するとそれはクリエの血と混じり合い、金色に変わる。


 魔法には属性により色があり火なら赤、水なら青といったように分かりやすく、白は聖属性か無属性を、そして金色は神の神性を表していた。

 

「綺麗……」


 アニスがクリエとの間に浮かぶ、金色の一滴の血を見て呟く。


「そう、綺麗だよ。それはアニス自身でもあるんだ」


 クリエは血ではなく、アニスを真っ直ぐに瞳に捉えている。


「……」


 それはクリエによって救われた時に言われた言葉だった。

 アニスは人体実験で様々な血や魔力が混じっている。

 それを汚いとずっと感じていた。

 現に、アニスたち実験体はその力ゆえに魔物でも魔族でもなく「化け物」と言われる事が多い。

 今でも自分が何なのか分からなくなる時があるが、それでもクリエから綺麗だと言われる事に、何よりも救われ、幸せを感じていた。


 やがてクリエはアニスに向かって両手を伸ばして微笑む。


「おいで、僕の可愛くて綺麗なアニス」

「……はい」


 アニスは恍惚とした表情になると、金色の血を口に含み、そのままクリエに口付けをして強く抱きしめた……。

 

******


 翌日の朝、ホテルの食堂で朝食を食べているアニスは上機嫌だった。

 昨日とは打って変わったアニスに、ミヨンとウィルは一瞬不思議がるが、妙にクリエにちょっかいを出すので、なんとなく察して理解する。

 食堂でアニスはお酒を飲んではいないが、朝に昨日クリエが持って来たワインを一緒に飲んでおり、酔ってはいないが仄かにワインの匂いを漂わせていた。


 「それでこれからどうする?」


 アニスの事は心配しなくて良くなり、仕事に集中してミヨンが切り出す。


「まずは伯爵に昨日の事を報告してから……どうしようか」


 クリエは答えるが、実際どうすればいいのかすでに分からなかった。

 ファン一人一人を説得する事も無理であり、必要なのはそういった人たちの心を動かすような何かが必要になる。

 このままでは最悪デセミアの力で解決する事になるが、それは出来れば避けたかった。


「あ、皆様! 大変なんです!!」


 そんな悩みをしていると、エレナが慌てて息を切らしながらクリエたちに近寄って来る。


「おはよう。そんなに慌ててどうかしたの?」


 クリエがエレナに落ち着くように言うと、何度か大きく深呼吸した。

 暫くしてから落ち着きを取り戻すと、咳払いを一つして口を開く。


「もしかしてまだ何も聞いてませんか?」

「? 一体なんの事だ?」


 ミヨンが疑問を口にする。


「そうですか……じゃあ、まだ外には広まってないみたいですね」


 安堵したようにエレナ言った。


「何を言ってるのかさっぱり分からんが、怪しい人物なら判明したぞ」

「え!? もう分かったんですか? さすがは皆様ですね。それで誰だったんですか?」


 尋ねて来るエレナに、クリエたちはお互いを見ると小さく笑い、一通りエレナに説明をする。

 話を聞いたエレナは顔を恥ずかしそうに赤くした。


「ま、まさかお父様が原因だったなんて……」

「いや、原因じゃないよ。ただ今回は目立ってしまったっていう事かな。ちなみに伯爵は良く変装したりするの?」

「たまにお忍びであります。そのままで行くと本音を聞けないかも知れないからと。しかし、良く今までバレなかったものです」

「まぁ、姿は知ってても声は良く話さないと覚えないしね」

「あの……お父様はどの様な罰をうけるのでしょうか?」


 エレナが恐る恐るクリエに聞く。


「ん? 特に罰は無いよ。ただ、次からは状況を考えてするようにって、注意程度かな」

「寛大な処置、ありがとうございます」


 深々とエレナが頭を下げる。

 そこである事を思い出したウィルが口を開いた。


「それで結局大変な事とは一体何ですか?」

「あ! そうでした。実は……」


 と、周囲には聞こえないように声を潜め、


「演者の方々が、今のままではファン同士が喧嘩をして危ないから、演奏などを辞めると。中には演者自体辞めたいと言う方も出てきてしまって……」

『え!?』


 クリエを除いたミヨンたちが、エレナの言葉に思わず声を上げる。

 どうやらファンたちの行動は演者たちにも悪い影響を与え始め、みんなが驚く中、クリエだけは静かにある事を考えていた。


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