音楽祭 プロローグ
長い銀髪に、表情の起伏が薄い女性が多くの人に囲まれながら周囲を見ていた。
背は低めで目が大きく、顔立ちが少し幼なく見え、美人というよりは可愛く見える。
服は喪服の様な黒いロングスカートのドレスだった。
そこには墓標すらない遺体が埋められただけの墓や、ただ布を被せられて横たわっている遺体が静かに眠っている。
親しかった者や愛した者の死を悲しんでいる人たちがそれぞれ寄り添い、涙を流していた。
「……」
銀髪の女性は無言で悲しみ嘆いている人たちを見据えると、長い銀髪を自らが座る椅子と、音楽を奏でるハープに変え瞳を閉じる。
そして、深く重く静かに……生者と死者を癒すように優しくゆっくりと奏で始めた。
「モフト様……ありがとうございます」
その姿を見て、曲を聞いた人がすがる様に言う。
モフトと呼ばれた女性は人ではなかった。
戦争をしている二国の人々の想いから生まれた思想神 (しそうしん)。
世界の創造主から造られた世界神とは異なる神の一人だった。
思想神は思いから生まれるが、同時に思いである信仰心が無くなれば消えると言われている。
今この国は隣国と長い戦争を繰り広げ、年老いた者から幼ない者まで戦争に駆り出され、毎日当たり前のように人が死んでいた。
元はワースという一つの国だったが、思想の違いでイルワースとレスワースという二つの国に分断される。
最初は良かったが、次第に資源や土地の取り合いで双方が自らが土地の所有者だと言い合い、戦争に発展した。
そんな中、モフトは戦争をしている二国間を行き来し、死者が集められている場所で毎日毎日、ただレクイエムを歌い続けていた。
「~~♪ ~♪ ~~~♪」
歌に明確な歌詞はなく、音楽に合わせてルやラなどのスキャットで歌われていく。
親を亡くした子供、子供を亡くした親、友を無くした者……。
様々な年齢性別種族が集まる中に、赤髪の長髪に赤い瞳をした女性がおり、ただ静かに音楽に耳を傾けていた。
その女性にとって、モフトが奏でる音楽を聴く時間は唯一安らぎ、亡くなった仲間たちに祈りを捧げる事が出来る、ささやかだが大切な時間だった。
「なんで……なんで死んだんだ。何時までこんな事が続くんだ……」
音楽を聴きながら、誰かが嗚咽と共に言葉を呟く。
モフトは静かに瞳を開けた。
モフトには分からなかった。誰だって大切な人が死ねば悲しい。
それをしているのが自分たちなのに、なぜ止めないのか。
自分で自分を殺している。そう言える行為ではないのかと。
「~♪ ~~~♪ ~~♪」
そしてそれとは別に羨ましかった。
モフトは「弔い」「哀悼」「慰め」などから生まれた。
いつか自分への信仰心が無くなって消えた時、泣いてくれる人は居るのだろか?
信仰心が無くなる。それはこの戦争が終わればすぐに来るのでないか……。
必要とはされるが、愛されない存在だった。
誰かに本当の意味で必要と……ただ愛されたかった。
それでもモフトは戦争が終わるまで、レクイエムを歌い続ける。
それはまるで、自分自身に向けて歌っているように、モフトには感じられた。




