リゼとウィル エピローグ
暫く経っても、ミヨンたち三人は商品のチラシを見ながら、クリエに似合う服飾品をそれぞれの好み全開で話し合っていた。
それを見ていたクリエは良く飽きないものだと思いつつも、自分の事を考えてくれている事を嬉しく感じている。
「もういっその事、全部試着させてから買うのが一番じゃない? あれこれ想像するよりもそっちの方が分かりやすいと思うの」
アニスが目の前に広げているチラシを指差しながら言った。
「しかし、予算はどうするんですか? 折角似合う物があっても、私たちの懐具合はまだまだ厳しいですよ」
「それなら問題ない。今の私たちにはこれがあるからな!」
と、ウィルの問いにミヨンはテーブルに一枚のカードを誇らしげに置く。
それはリゼから貰ったエレクトラ商会の関係店で使えるVIPカードだった。
「流石に緊急時以外にタダで貰うのは駄目だが、特別割引が効く! 最低でも2割は硬いし、セール品などにも使えるから多少の無理は出来るぞ!!」
「ホント、リゼがこんな物くれるなんて太っ腹よね。今度会った時はお腹を思う存分揉んであげよう!」
「止めてください。カードを没収されるかもしれないでしょう。しかし、ここはありがたく使わせていただきましょうか」
一枚のカードを三人は拝む様に手を合わせている。
そんな事をしていると、アニスが何かを思い出したよう口を開いた。
「そう言えばウィル。クリエとはどうだったの?」
「は? どうとは……一体何の事ですか?」
突然の質問だったが、心当たりがあり上擦った声でウィルは答えた。
「だって、深夜にクリエがウィルの部屋を訪ねたでしょ?」
「ど、どうしてそれを知っているんですか?」
「そりゃあ、私が折角だから女性クリエに夜這いしようと思ったら、ウィルに用事があるから駄目って言われたもの。それから朝方まで帰ってこなかったし。ちなみにその事はミヨンにも報告済みよ」
「大体何があったのか分かる。しかし……ウィルもとうとうクリエとそういう関係に。まぁ、クリエはああいう奴だし、私たちは気にしないがな」
ミヨンとアニスは納得気にお互いを見て頷く。
苦笑いを浮かべるウィルは、その時の事を思い出した。
******
リゼが仲間になったその日の深夜。
宿の自室でウィルはベッドの上に座ると、深い溜息をつきながら考え事をしていた。
「……」
それはクリエの事で、女性となったクリエに見惚れてしまった事だった。
使徒になった際、ウィルはクリエに愛を誓っている。
それ自体は今も変わっていないが、いざ女性となったクリエを見た時、なんとも言えない感情が全身を駆け巡った。
「ウィル、居るかい?」
「!」
ドアをノックされ、クリエの声が聞こえる。
ウィルは一瞬身体をビクっと震わせたが、出来るだけ平静を装いながら返事してクリエを部屋に入れる。
部屋に入ったクリエはウィルとベッドの上で隣同士に腰を掛けた。
「こんな時間にどうかされましたか?」
「うん、今日はウィルの様子が変だったからね。心配になって来たよ」
ウィルの隣に座るクリエはすでに男性に戻っているのか分からないが、服はまだドレスのままで、仄かに香る花の香水が部屋に漂う。
「それは……ご心配を掛けてすみません」
「気にしないで、ウィルは大切な仲間だからね。それで一体どうしたの?」
クリエが心配そうにウィルに近寄る。
言いたい事はあったが、自分から口に出す勇気がウィルにはなかなか湧かなかった。
「僕は知らない内に傷付けてしまったのかな? ごめんね、情けなくて……でも、口にしてくれないと分からないんだ。だから言葉にして教えてほしい」
「……」
何も悪くない自分を責めるように言うクリエに、ウィルは逃げられない事を悟るとポツリポツリと話し出す。
普段、ミヨンやアニスがウィルにだけ肉体関係が無い事を、冗談ではあるが言って来て、どこか心の中で羨ましいと思っていた事。
その事に、なんとなく仲間外れのような気がしていた事。
クリエとリゼが情事をしている時、目が離せずつい見てしまった事。
そして何より、女性となったクリエに心が激しく動揺してしまった事を……。
口に出して言うのは、顔から火が出るほど恥ずかしかったが、ウィルにとってはそれよりも、クリエを悲しませる事の方が辛い事だった。
やがてウィルの告白を聞いたクリエは無言でベッドから立つと、ウィルの目の前に立つ。
そしてウィルを真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「僕は反省しないといけないね。そんなに君を悲しませていたなんて」
「そんな事は……」
「てっきりウィルは僕にそういった事を求めていないと思っていたんだ。言ってくれないから。でも、確かに今のままは不公平だよね」
「……え?」
と、クリエはウィルの胸をトンと押してベッドへ倒し、その身体の上に覆い被さる。
咄嗟の事にウィルは反応ができず、クリエにされるがままだった
「……」
「ごめんね。もっと早くこうしてれば、ウィルが苦しむ事もなかったよね」
クリエはウィルを見て、優しく微笑んだ。
クリエの手が、ウィルの手を絡める様に掴む。
そして、ウィルはどうしても気になる事をクリエに聞いた。
「あ、あの……クリエ様。今は一体『どっち』なのですか?」
ウィルの問いにクリエは暫く考えると、唇が触れるくらい近くに顔を寄せ、
「それはウィル自身で確かめればいいじゃないか……さぁ、愛し合おう」
妖しく、そして悪戯っぽく笑うクリエの表情に、すでに死んで止まっている心臓が、激しく高鳴る錯覚をウィルは感じていた。
******
そして、二人はウィルに顔を寄せると、ヒソヒソと話し出した。
「それで……結局ウィルはどっちのクリエとしたの?」
「え? え? あ、いやそれはですね……」
「普段あいつは男だからな。女性の方は私たちも知らん。しかし、ここに帰ってから服はそのままだったが、性別までは確認していない。どうなんだ?」
二人に詰め寄られ、困ったウィルはクリエの方を見る。
クリエはそんな様子が楽しそうにニコニコと笑っているだけで、何も言ってはこない。
そこでウィルは今まで、そういった事で二人にマウントを取られていた事を思い出した。
そしてどこか勝ち誇ったような顔になる。
「……勿論、内緒ですよ。私とクリエ様だけの秘密です。今まで私にマウントを取って来たお礼ですよ」
「なっ! ウィルのくせに生意気な。良いわよ、今度は私が相手をしてもらうから」
「そうだな。あいつがどっちにもなれると、今回で証明されたしな。いくらでもチャンスはある」
「せいぜい頑張ってください」
と、そこでウィルは咳払いをすると話題を変える。
「そんな事よりも、今はクリエ様の服飾を考える事が大事です」
「それはそうね。危うく本命を忘れる所だったわ」
「しかし、ここで話をしていてもやはり埒が明かないな。こうなったらもう直接目で確かめるぞ。クリエ、報告書は終わったか?」
ミヨンたち三人は頷くと席を立ちクリエに声を掛けた。
「少し前に終わったよ。そっちの話は終わったの?」
「終わった。いや、これからだ。今から服を見に行くぞ!」
三人は出かける準備をいそいそと始める。
その様子にクリエは軽く息を吐いた。
「……やれやれ、僕の仲間たちは本当に愉快だね」
そしてクリエは愉快な仲間たちに手を引かれるがまま、着せ替え人形となるべく店へ連れて行かれるのだった。
~サイド2 リゼとの出会いとウィルの悩み 完~




