1 女性クリエ爆誕
とある街にある宿屋の一室。
クリエの部屋にミヨン、アニス、ウィルが集まり受けた依頼の話をしていた。
「今回の依頼、ちょーっと胡散臭いのよね」
アニスはクリエが受けた依頼書を見て言う。
内容は、今アニスたちが居る場所と少しだけ離れた場所にある元娼館。
今は宿屋になっている倉庫の隠し場所から、元娼館を裏で操っているある商人の不正の証拠書類を取ってきて欲しいと言う物だった。
依頼主は元その娼館の従業員の男性で、商人の不正に加担した事に罪悪感を感じ、騎士団に暴露しようとした。
しかし先手を打たれて商人に娼館を買い取られ、すぐ追い出されたため証拠書類を持ち出す事が出来なかったと説明を受ける。
そして、できれば書類の内容は確認が終わるまで見ないように。と、念を押されていた。
「そもそも依頼人が働いていた前の娼館の主人って、騎士団に捕まったのよね?」
「そうだね。何でも不正の主犯は娼館の主人だってなったみたい」
「なんの不正だったの?」
「娼婦に対して給料を中抜きしたり、脅して無理やり働かせていたみたい」
クリエがアニスの疑問に答える。それを聞いていたミヨンが口を開いた。
「騎士団は元娼館も捜査したんだろう? 何か出なかったのか?」
「騎士団に直接聞きに言ったけど、書類は出たけど簡単な帳簿で、誰が細かく指示しているとか、お客の名簿はなかったみたい。誰が黒幕なのかその証拠が今も倉庫にあるんだろうね」
「なるほどなぁ。しかし相手がよりにもよって、世界に名を馳せるエルフの豪商リゼ・エレクトラ……エレクトラ商会とはな」
「ちなみに、騎士団は主犯は元娼館の主人だと思っているから、再捜査する気はないからね。だから穏便に済ませるには、こっそり頂くしかないかな」
ミヨンも依頼書を見るが疑わしい目で見ている。
書類上は元娼館の主人はエレクトラ商会とは縁もゆかりなく、商会との繋がりが無いようになっていた。
さらに宿屋になってから一度放火によるボヤ騒ぎがあったと情報が追加されており、すぐに警備の者によって消し止められたが、犯人はまだ捕まっていない。
「そもそもですが、買い取ったのがその不正をしている張本人なら、とっくに証拠も処分されているのではないですか?」
ウィルがもっともな事を言う。
「その確認も含めての依頼だね。エレクトラ商会を相手にするのも大変だし、何より依頼がきな臭いからね。僕が受ける事にしたよ。本当に不正があるのなら、なんとかしないといけないしね」
「流石クリエ様です。皆が嫌がる事を率先して引き受けるとは」
「で、受けたはいいが実際どうすんだコレ? 恐らく警備は厳重だぞ? 今から宿をそっちに変えて機会を伺うにも長期滞在は怪しまれるし、何より懐が厳しい」
依頼が完了するまでは基本自腹行動なので、普段から金銭的に余裕がないクリエたちにとっては死活問題だった。
「それに関しては騎士団から良い情報を貰えたよ。三日後、あの宿屋では夜に社交パーティーが開かれるらしいんだ。それに潜り込んで、その時に書類を手に入れてみようか」
クリエが一枚のチラシをテーブルに置く。
そこにはエレクトラ商会主催の夜の社交パーティーの案内があった。
条件も書かれてある。まず、街に滞在中である事が絶対条件だった。
宿にある申込用紙に名前と職業に現在の居場所を書き、審査の後に参加の当落が書かれた手紙が二日前に届く。
受かれば、その手紙と低額の参加費を持って宿へ行けば参加できる内容だった。
「期間ギリギリ、申し込みするなら今日までね……って、ちょっと待って!」
アニスたちがチラシを見ていた時、ある事に気付き驚いた声を上げた。
「これって女性限定で、しかも大人のパーティーじゃない!」
注意書きには「成人女性限定」に加え、当人たちの了解があれば、宿の部屋で「親睦を深める」事も可能とあり、一種の出会い系に近いパーティーになっている。
「なるほど、一夜限りのアバンチュールを楽しむパーティーでもあるのか。しかし人の出入りが多いなら、参加者に紛れてこっそり倉庫に近づく事は可能かもしれないな」
ミヨンの擬態の力があれば本来は簡単ではあるが、無実の者を食い殺す事は流石に出来ない。
「いや、これって私とミヨンしか参加出来ないって事じゃない? クリエとウィルは何もしないで留守番でもしてるの?」
アニスが不満気に言うが、クリエは首を横に振った。
「ウィルにはここから幽体になって、宿全体の索敵とか協力してもらうよ。あまり離れてないから可能な距離だからね」
「じゃあ、クリエは一人でお留守番?」
「え? 僕も勿論パーティーに参加するよ? 人手は多い方がいいからね」
『?』
クリエの言葉を聞いたアニスたちは意味が分からないといった表情になる。
そしてウィルが恐る恐る口を開いた。
「あの……クリエ様は男性ですよね? 女性限定とあるのですが」
「うん、知ってるよ。だからね」
と、クリエは自分の身体に手を触れると、一瞬だけ光りに包まれ、
「これで大丈夫だよ」
笑顔で胸を張る。
その張られた胸を見てアニスが気付いた。
「あれ……? なんかクリエの胸、膨らんでない?」
「は? 何を馬鹿な。そんなわけが……」
アニスに言われてミヨンがクリエの胸を見つめる。
そこには大きくはないが、確かに胸の膨らみがあった。
アニスとミヨンはお互いを見ると、頬をつねり合い現実であると確認する。
そんな二人をクリエは可笑しそうに見ていた。
「今、僕は女性だからね。確認してみるといいよ」
クリエはおもむろにミヨンの手を取ると、胸に当てる。
ミヨンは躊躇いながらも、ゆっくりと手を動かして言った。
「……ある。間違いなく、あるぞ」
「え? ちょっと、私にも触らせて」
アニスがクリエの胸をフニフニと軽く揉む。
「ん……なんかちょっと、くすぐったいし恥ずかしいね」
クリエが少し顔を赤らめると、身体をよじりアニスの手から逃れた。
「どうしよう……クリエがドチャクソ可愛い」
「おいこら、それ以上は駄目だ。その手の動きを止めろ」
アニスの手から逃れたクリエだが、アニスは両手をワキワキとさせてクリエににじり寄る。
そんなアニスをミヨンが羽交い絞めにして止めた。
そして、視線は自然とクリエの下の方に向き、今まで見ているだけだったウィルに、アニスとミヨンは視線を合わせた。
「ウィル、下の方は任せて良い?」
「……は?」
アニスの問いに、普段冷静なウィルが珍しく間抜けな声を上げる。
「ほら、男性同士なら問題ないかなって」
「いえいえ、今は女性なんですよね? 私が確認する方が問題あるでしょう!」
「それもそうだっけ? なんだか混乱してきたわね」
二人は普段と勝手が違いどうもどきまぎしていた。
ミヨンとアニスは、すでにクリエとは肉体関係はあるが、ウィルにはまだない。
性別の問題もあるが、何よりウィル中で気持ちの整理が付いていなかった。
暫くしてからアニスとミヨンはお互いを見合うと、クリエを部屋の隅に連れて行く。
そして何やらこそこそ話した後、急にどこか達観した表情でウィルの方に振り返り、ミヨンが口を開いた。
「ウィル、私たちはこれから行って来る」
「行くってどこへですか?」
「勿論、申し込みにだ。何の問題もない」
「そ、そうですか。分かりました」
クリエはミヨンとアニスに手を握られ連れられて行く。
「あ、帰りに服屋とか寄って、クリエに似合うの無いか見て来るから遅くなるかも。留守番よろしくね!」
アニスが上機嫌に言うと、笑顔なミヨンとアニスは何やらわいわいと話しながら部屋を出て行った。
「……」
そんな二人を呆気に取られて無言でウィルは見送る。
そもそもまだ参加できるのかすら分からない。と、言う暇さえなかった。
しかし、ギリギリ申し込んだにも関わらず、翌日参加当選の手紙が届く。
手紙を見たクリエがノルエステの職員は他の職業よりも信頼があり、こういったモノは当たりやすくなる可能性がある事を話した。
当選結果に喜び、本格的にパーティーに来ていく服を買いに行く事になる。
ミヨンとアニスはクリエを着せ替え人形のように楽しみ、ウィルはその荷物持ちにされ、心の中で溜息を吐いた。




