ミミック エピローグ
クリエとセレンの出会いを思い出したミヨンの頬には、一筋の涙が流れていた。
鏡に映るセレンの姿を見る……。
今ではすっかりこの姿が自分だと思えるくらいは誇りがあった。
セレンであってセレンでない、ミヨン・フェイカーとして。
そして初めての友達を食べた味は……吐くほど不味かった。
もう二度と友達を食べたいと思えないほどに。
涙の跡を流すようにシャワーを浴び終えると、いつものフリルやリボンのついた服に着替える。
この趣味は実はセレンだった。
可愛い服は基本妹のクロエが着るが、実はセレンも興味はあり姉としての威厳を保つため言えずにいた。
なんとも可愛い奴だと、ミヨンは思う。
そして同時にいざ来てみると悪い気はせず、今ではミヨンも可愛い物が好きになっている。
ただ何点は服代だった。
擬態などで変化すると服も勿論なくなる。その為、一時は服代を節約する為に、服を常時擬態していたのだが……。
『それってミヨンはずっと裸って事?』
と、クリエに言われてなんとなく恥ずかしくなり、極力服を着るようになった。
そのためリゼが持ってくる服にはかなり助かっている。
風呂場から出るとクリエも丁度報告書が書き終わったようで、茶色の大きい封筒を机に置いて背伸びをしていた。
「お疲れ様。たまの書類作業はどうだ?」
「疲れるね。ホント、ミヨンには助けてもらってばっかりだよ」
「……」
笑顔で答えるクリエの顔をミヨンは見つめる。
クリエと出会った後、半年ほど二人で仕事をしていた。
二人きりは大変だったが、ミヨンにとっては全てが新鮮で楽しく、何よりいつの間にかクリエは心の支えになっていた。
その後にアニスとウィル、リゼが仲間になり数年経つ。
思っていた以上に賑やかになったが……不思議とミヨンは心地が良い。
昔の事を思い出したせいか、どうも感傷に浸っている自分に心の中でミヨンは自嘲した。
「……どうかしたの? 悲しそうな顔をしてるよ」
そしてクリエはいつもそういう事に気が付く。
勝てないな……そう思うミヨンだった。
「少し、セレンやクリエと会った時を思い出した」
「懐かしいね。もう数年前の話になるね」
そこでふとミヨンは思いだし、疑問を口に出す。
「そう言えば、結局私の名前ってなんだ? フェイカーはまぁ、フェイク辺りだろうと思うが」
「え? 今頃それを聞くの?」
「なんだ、言えない事なのか?」
「あー、うん、そうじゃないんだけど。怒らない?」
クリエがどこか困ったように言う。
「事と次第による。ほら、言ってみろ」
「……フェイカーはミヨンの言った通り。ミヨンはイミテーションから取ったんだ」
「なるほど、どっちも偽物って意味か」
「うん、そうだね」
「よし、分かった。目を瞑って歯を食いしばれ」
笑顔でミヨンが言い、クリエは大人しく従った。
「覚悟しろよ……」
そしてミヨンはクリエに近づくと、長い口付けをして抱きしめる。
「バカだな。私がお前から貰った名前に怒るわけないだろ。そんな事を考えたお前に怒ってる」
それは優しい声色だった。
「それなら良かった」
「私は名前に恥じた存在になったか?」
「勿論。君は僕が付けた名前とは正反対の存在……この世でだた一つの本物のミヨンだよ」
「そうか。クリエ、お前に二つ言っておきたい事がある」
「何?」
「私がお前の傍から離れる事は無い。お前が私から離れない限りな」
「もう一つは?」
クリエを抱きしめるミヨンの力が強くなる。
そして、甘く静かに耳元で囁いた。
「……愛してる」
答えるように、クリエも少しミヨンを抱きしめている力を強める。
「知ってる。僕もだよ」
窓から差し込み優しい朝日が、クリエとミヨンを包み込んだ。
やがてミヨンはクリエから離れると、
「でも、お前の愛は他の三人にもあるからな。本当困った神様だよ」
悪戯っぽく言う。
そんな言葉にクリエはどこか苦笑していた。
しかしミヨンにとってそれはどうでも良く、大事なのは自分の心。
それだけだった。
「おーいミヨーン。起きてるー? クリエもそこに居たりするー?」
「そろそろ朝食でも食べに行きましょう」
アニスとウィルの声と共にドアがノックされ、今回の二人の甘い時間は終わりを告げる。
「ああ、居るぞ。今鍵を開ける」
最後にミヨンはクリエの頬に軽くキスをすると、ドアのカギを開け二人を招き入れた。
クリエとミヨンが二人で居る所を見て、アニスがニヤニヤと笑う。
「あ、いたいた。クリエが居ないから探しちゃったじゃない。二人で朝から居るなんて、なんか良い事でもしてたのぉ?」
「ああ、してたぞ。お前もやってみるか?」
と、ミヨンは机の上に置かれている、書き終えた報告書の封筒をアニス渡した。
「? 何これ?」
「ギルドへの報告書だ。お前はホントしないからなぁ」
「確かに、アニスはしませんねぇ。たまには書かないと、書き方忘れますよ?」
ミヨンとウィルにアニスは詰められる。
「いやぁ、こういうのって得意な人がするのがいいじゃない? 私はほら、力担当だからね」
渡された封筒をアニスはミヨンに返す。
ミヨンは溜息を吐くと、大きなショルダーバッグに封筒を入れた。
「そんな事より朝ごはん食べに行こう。ウィルが良い店見つけたんだって……お酒も美味しいらしい」
話題を変える様にアニスが明るく言う。
「そうだね、お酒はともかくご飯を食べに行こうか」
クリエが言いながら部屋を出て行こうとし、アニスとウィルもその後についてく。
「……」
そんな光景をミヨンは後ろから嬉しそうに眺めていた。
クリエたちと一緒に景色を見て、美味しい物を食べる……いつかあの世でセレンに会えたなら、思いっきり話をしてやろう。
心はミヨンとして、そしてセレンの姿で、二人一緒に体験した、多くの旅の思い出話を……。
今、ミヨンの目の前には間違いなく、自分だけの宝物がそこにはあった。
~サイド1 ミミックの宝物 完~




