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世界の創造主は、仲間達と問題の後始末ばかりします。  作者: 灰色
サイドストーリー1 ミミックの宝物
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5 ミヨン・フェイカー誕生

 満月が柔らかな光で夜を街を照らしていた。


 その一角にある食堂の中にセレンが……セレンの姿をしたミヨンが居た。

 食堂のカウンターにセレンの形見の剣に、宝物庫から持って来た財宝の一部と書置きを一緒に置く。

 剣は綺麗にしたが、胸当ては剣で貫かれた跡があったため食べて処分した。


 誰もいない食堂は閑散としており、時折鳥の鳴き声が外から聞こえてくる。

 今の時間は家族が寝ている事をセレンの記憶を読んで知っていた。

 そして冒険者として働き、帰りが遅くなる事や時に泊りがけもある為、帰りが遅くになっても大丈夫な事も。


 初めての食堂のはずが、なぜか懐かしい匂いがする感じがし、少し歩き回ると妹であるクロエの部屋に向かう。

 両親に会うのは、まだ力に慣れていない為バレる可能性があるので止めておいた。


 クロエの部屋に入ると、黒い長髪の女性が一人、ベッドで眠っている。

 15歳とあってかまだどこか顔は幼く見え、セレンが言った通り、可愛い感じがした。


「確かに、こんな子に上目遣いでお願いされたら断りにくいな」


 ミヨンは呟くと、クロエの頭をそっと優しく撫でる。

 そしてクロエに手紙を置こうとした時、


「お姉ちゃん?」

「!}


 目が覚めたクロエが上半身を起こしてミヨンを見る。


「お帰り。今日は遅かったんだね」


 そう嬉しそうに言うと、ミヨンに抱き着いた。

 ミヨンも思わず抱きしめる。


「今日はお友達を説得してくるって言ってたけど、どうだったの? 魔族の友達なんて私早く会ってみたいな」


 屈託なく笑うクロエにミヨンの胸は締め付けられた。


「それなんだがな。ダメだった。今の仕事がどうしても忙しいって」

「そうなんだ。残念だなぁ。でも、お姉ちゃんは諦めないんでしょ?」

「そうだな……いつか紹介出来る日が来るかも知れないな」


 言葉を紡ぐたびに、罪悪感がミヨンを刺していく。


「お仕事はどうなの? もう冒険者なんて危険な事しなくてもいいんだよね?」

「実はな最後にとても良い仕事入ってしまってな。前金もすでに貰ったんだ。だから、最後に一仕事してくるよ」

「そうなんだ」

「お金は店のカウンターに置いてあるから、明日みんなで見てくれ。あと私の装備も依頼人の方で新調してくれるから、剣だけ置いていく。胸当ては使い過ぎて駄目になったから捨てたよ」

「分かった……今から行くの?」

「ああ、急ぎらしいからこれから行ってくる。ちょっと遠くて連絡も暫く取れないが、店の事は頼むぞ」

「うん、お姉ちゃんが帰って来た時は土産話を聞かせてね」

「……ああ」


 別れを惜しむようにクロエが再びミヨンを抱きしめた。

 ミヨンも抱きしめながら、クロエの頭を撫でる。


「クロエ……幸せになってくれ。父さんと母さんにも伝えてほしい」


 それが、セレンが死ぬ間際に言い切れなかった言葉だった。


「……? う、うん、ちゃんと伝えるね」


 どこか戸惑いながらクロエが答え、


「じゃあ、行ってくるよ」


 ミヨンは抱きしめていた手を離し、部屋を出ようとする。


「いってらっしゃい」


 ドアに手を掛けた時に声が聞こえた。


「……いってきます」


 ミヨンは出来るだけ笑顔で答えて部屋を出て行く。


******


 街から少し離れた森の中をミヨンはふらついた足取りで歩いていた。


「あ・・うぅ・あぁああ! 最低だ……私は……私は!!」


 瞳からは涙が止めどなく溢れ、やがてその場に膝から崩れ落ちる……。


「全部嘘だ! 何かも……私の姿も言葉も……私は……私は一体何をしているんだ!」


 少なとも最後にクロエに伝えた言葉は、セレンが家族に最後に伝えたかった言葉だった。

 だが、それ以外が全てが偽りで……もう、あの家族がセレンに会う事はない。

 それどころか、死を知る事も出来ないかも知れなかった。


「なんでこんな事に……私が死ぬはずだった! どうしてアイツが……セレンが死ななければいけなかった! こんなの……どこにも救いがないじゃないか」


 何度も何度も拳を地面に打ち付け、嗚咽を吐き出す。


「すまないセレン……すまないクロエ……父さん、母さん……死んでごめんなさい」


 セレンとミヨンの記憶と感情が激しく混ざり、高ぶり、自分の気持ちすらミヨンには分からなくなっていた。


 そしてひとしきり泣き腫らし、なんとか落ち着きを取り戻した時、


「少しは落ち着いた?」

「……」


 聞き覚えのある声に顔を上げると、クリエの姿があった。


「神様……私は一体なんですか? 姿も言葉も全てが偽物。私は……正しい事をしましたか? 私には私が無い」


 クリエにすがる様にミヨンが見つめる。


「違うよ」

「え?」


 ハッキリと否定する言葉にミヨンは驚いた。


「君は今日、君になったんだ。確かに姿は偽物、嘘もついた。でも、それを選んだのは君自身。セレンの家族の為に食べたくもない友達を食べた。でも、その代わり、彼女の最後の言葉を伝える事が出来た。それは、誰かではなく、君自身の意志……心だよ」

「……」

「今日の行いが正しいかは分からない。でもいつかその答えが出る時が来るのを、僕は願うよ。忘れないで、名前も姿も無くても、君が君である事だけは変わらない。だって君は……」


 と、そこでクリエは優しい笑みを浮かべて続けて言う。


「セレン・スタインの大切な友達。そうだよね?」

「……っ!」


 言われて、改めてミヨンは気が付いた。

 あのダンジョンでセレンと過ごした時間、思い、そして友達……それだけは自分自身の物だと。

 ダンジョンでの思い出を反芻し、ミヨンは徐々に落ち着きを取り戻していく。


「落ち着いた所で、君に伝えないといけない事があるんだ」

「?」


 そしてクリエがなんだか申し訳なさそうな表情になって言った。


「君、宝の番人なのに勝手に宝を持って行ったでしょ? あそこの責任者にそれを伝えたらね。クビだって」

「……は?」


 思いがけない言葉に、ミヨンは自分でも驚くくらい間抜けな声を上げた。


「番人が勝手に宝を持って行くなんて職務放棄。持って行った分は退職金にするから、もうダンジョンに帰って来るなってさ」

「ははっ……あはは……」


 ミヨンの乾いた笑いが森に響く。


「脱引きこもりだけど、無職になっちゃったね」

「帰る場所すら私には無くなったわけだ……ホント、なんて厄日なんだ今日は」

「そうそう、君はそういう話し方の方が似合うよ」

「あ……すみません」


 世界神であるクリエの前で、いつもの感じで話してしまい畏まる。


「気にしなくていいよ。出来ればそっちの方で話てほしいな。敬語は疲れちゃってね。でも、良い事なんじゃないかな?」

「なぜ?」

「自由にどこへでも行けるって事だよ。そう、好きな風景を見て、好きな物を食べれる。最高じゃないかな?」


 考えようによっては、それは悪くない話だった。特にセレンとの願いを叶えるには。


「……確かに。でも、残念ながらお金がない。持って来た宝は全部、セレンの家に置いてきたから」

「そんな君に朗報だよ。僕の仲間になればいい。僕はノルエステのギルド員でね。ずっと一人だったんだけど、そろそろ仲間が欲しいなって思ってね。どうかな?」


 ミヨンは顎に手を当てて考える。

 仲間も何も、クリエの使徒である時点で仕える事は決定しているようなものだった。


「私が使徒なら命令すればいいだろ?」


 クリエは首を横に振る。


「使徒であっても、僕が欲しいのは仲間なんだ。従属関係じゃない。無理強いはしないよ。どうする? ちなみに無職というか、お金が無いのは悲しくなってくるよ。特にお金がなくて野宿した時とかね」


 恥ずかしそうに言うクリエに、ミヨンはこの世界神の存在が分からなくなった。

 神というよりは、どこにでも居るただの少年に見える。

 しかし、無職でさらにお金が無いと言うのは悲しい……いろんな意味で。


「なら、一つ条件がある」

「何かな?」

「名前が欲しい。今の私はセレンであってセレンじゃない。ミミックという種族にすぎない。せめて名前くらいはクリエ・アーレル様に付けてほしいな」

「いいよ……そうだね、君は『ミヨン・フェイカー』だよ」


 もっと悩むかと思ったが、あっさりと名前が決まった事にミヨンは疑問が過った。


「……妙に早いな。もしかてずっと考えていたとか?」

「バレた? 君を使徒にしようと思った時から、良い名前ないかなーってずっとね。嫌だった?」

「そんな事はない。ありがとう……私はこれから『ミヨン・フェイカー』だ。貰った名前に恥じない存在になるよ」


 と、そこでクリエは首を横に振る。


「逆だよ。その名に恥じる存在になってね。あと仲間なら、様はいらない。クリエでいい。そっちの方が気が楽だからね。もし僕と居るのが嫌になったら、いつでも別れてもいいから好きに生きて」


 さすがに世界神を呼び捨てするのは抵抗があったが……クリエは言って欲しげに目を輝かせていた。


「分かったよ……クリエ。しかし、恥じるって、もしかしてこの名前、変な意味があるのか?」

「え? それはまぁ、いつか機会があればね」


 目を逸らし、どこかバツ悪そうにクリエは笑うと、ミヨンに手を差し出す。

 暫くその手を見つめてから、ミヨンはその手を握る……クリエの手はセレンと同じで温かった。


「これからよろしくね、ミヨン」

「こちらこそよろしく、クリエ。しかしミミックの性分か、なんか宝物がないと落ち着かないな」

「今までは誰かの宝物を守ってたんだ。これからは自分の宝物を見つけて守ればいいよ」

「……そうか。そうだな」


 クリエの言葉にミヨンは笑顔になる。

 街を離れる間際、ミヨンは最後にセレンの家の方を名残り惜しそうに見た。

 そして、暫くして再び前を向く。

 クリエに手を引かれ、この日からセレンの姿……セレンと一緒にミヨン・フェイカーとしての人生を歩き出した。


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