4 最初の友達
ベテラン冒険者二人とセレン、そしてミヨンは一人。
三対一。到底勝ち目のない戦いだった。
宝物庫にある魔法トラップは財宝に目が眩んだ時に発動する。
その前に戦闘に入ったのなら、財宝どころではなくトラップは発動しなかった。
「このミミック……強いぞ!」
伊達に100年を生きている訳ではなく、世界には年月で魔力が熟成され強くなる者がいる。
責任者によって造られたミヨンもその一つで、実際普通に戦っても並みの冒険者よりも強い。
大柄の男性の攻撃を掠りながらも、両手で器用に移動して避けて魔法で攻撃するが、隙を女性の攻撃魔法が的確について来る。
「でも三人なら勝てる! そこの貴女は無理しなくていいから、出来る事だけをして!」
「あ、ああ……分かった」
セレンは剣を構えて、明らかに手を抜いた攻撃をしていた。
この時のセレンには、なぜ急にミヨンがあのような行動を取ったのか理解していた。
全てはセレンがミヨンの仲間だと勘違いされない為だと……。
徐々にミヨンが押されていく。
男性の斬撃と女性の魔法が苛烈さを増し、やがてミヨンは壁際に追い込まれた。
女性が魔法でミヨンを拘束すると、男性が一気に距離を詰めて剣を突き刺してきた。
『……』
一瞬だけミヨンがセレンを見て目を瞑った。
これでいい……。
それがミヨンの最後の思いだった……が、
「だ、だめえぇぇ!!」
突如ミヨンの身体が弾き飛ばされた。
驚いてミヨンが目を開けると、そこには自分の代わりに男性の剣に胴体を突き刺されたセレンの姿があった。
「なっ! お、お前何をしてるんだ!!」
「……っ!」
男性があまりの事に驚く。
そして次の瞬間、セレンの剣が男性の首を跳ねた。
一瞬で周囲は二人の血で染まる……。
「え? 嘘……」
エルフの女性は何が起こったのか分からず茫然とし、それはミヨンも同じだった。
しかし、暫くしてから女性は何か気付いたように言う。
「あれ……? この人、街の食堂の店員? まさか、あの食堂は魔族と組んで人を襲っていたの!? 大変、急いでみんなに教えないと!」
それはミヨンには聞き逃せない言葉だった。
勘違いをした女性は、慌ててその場から逃げようとする。
『!!』
そこから先はミヨンはハッキリと覚えてい……。
ただ、それだけは止めようと逃げる女性を必死で追いかけ……気が付けば食い殺していた。
受けた魔法の攻撃で、全身がボロボロだがなんとかセレンの傍に近寄る。
「良かった……無事……だったんだな」
腹部に男性の剣が突き刺さり、血が大量に出ていた。
もはや虫の息で、かろうじて意識がある状態であり、ミヨンがいくら回復魔法をかけても意味がないほどの傷の深さだった。
『死ぬな……家族でシアワセになるんだろう! 大丈夫だ、きっとナニか方法が!』
その場からミヨンは離れようとするが、セレンがミヨンの手を力強く握りしめ、首を横に振る。
握られた手はまだ温かかった……。
「……お前のせいじゃない。だから……気にするな」
『……』
「本当は……一緒に景色を見たり……ご飯を食べたかった」
『分かった、イッショにどこへでも行くから死ぬな』
「すまない、もう……文字も見えない……」
段々と握っている手から力が抜けていくのが分かった。
代わりにミヨンが強く手を掴む。
「ごめん……父さん、母さん……クロエ。どうか……」
そこまで言うと、セレンの身体から力が無くなる。
そして徐々に体温も失われていくのが、繋いでいる手から伝わって来た。
暫くしてミヨンはその場から動くと、死体になっている男性と女性を綺麗に掃除した。
それが習慣からなのか、少しでも気を紛らわす為だったのかすらミヨンに分からない。
そして、セレンの番がやってきた。
『……』
物言わぬ身体になったセレンを見つめて、手で身体を触れるが……出来なかった。
自分と一緒に居たいと言ってくれた人を……初めて出来た友達を食べる事はどうしても出来なかった。
しかし、このまま放置しても、ただ腐っていく。
そんな事は分かっていたが、何も出来なかった。
ミミックとしても、友達としても……。
「なんだか面白い事になってるね?」
『!』
不意に背後から声が聞こえ咄嗟に襲うが、強力な魔力に弾かれる。
それはさっきの冒険者二人よりも強いが、何よりその容姿にミヨンは驚いた。
そこには黒髪短髪で白と黒の模様が入った服を着ている、どう見ても少年という人物が立っている。
「急に襲ってくるからごめんね。ちょっとだけ宝を貰っていくよ。あ、ここの責任者には話を通してあるから、心配しないで」
ミヨンに軽く言うと、少年は袋に適当に金貨や宝石を詰めて行く。
そして、終わるとミヨンの方に近づいて口を開いた。
「僕はクリエ・アーレルって言うんだ。しがない世界神の一人だよ」
笑顔で言ってくるクリエにミヨンは心底驚いたが、自分が簡単に吹き飛ばされた魔力に、さらに魔法のトラップすら発動しない事に合点がいった。
クリエはセレンの死体とミヨンを交互に何度が見る。
「食べないの? それが君の仕事じゃなかったかな?」
クリエの言葉にミヨンは何も反応が出来ず。暫く考え込むと、クリエに向き直り魔法で文字を書く。
『神様、オネガイがあります』
「何かな?」
『カノジョの遺体を、カゾクのモトへ送ってくれませんか? 場所は、そこのリュックにあるチラシのミセです』
ミヨンが宝物庫の片隅にあるリュックを指差す。
自分で送りたいが見た目もあり、間違いなく殺したと勘違いされて襲われる事は明らかだった。
クリエはリュックを漁ると、中からある食堂の名前と場所が印字されているチラシを手にする。
「そんなに遠くは無いみたいだね」
『オネガイします……もしナニか対価がヒツヨウならなんでもします』
「……」
クリエはミヨンとセレンをもう一度見た。
「君にとって彼女はどういう関係なの? 君を守って死んだけど」
『見ていたのですか?』
「うん、最初からね。それで、なぜ君は彼女を食べずに、弔いたいのかな?」
言葉通り、偶然クリエはセレンが助かった最初から見ていた。
なんとなくその日は宝を取りに行きづらくなり、日を改めると二人が話し合っている事を知る。
そこで興味を持ち、事の成り行きをこっそりと観察していた。
ミヨンは返答に困ったが、思っている事を素直にクリエに答える。
『……友達だから。ハジメテできた、タイセツな友達だからです』
ミヨンの答えにクリエは笑顔になった。
「そっか、分かったよ」
『じゃあ、あの子の遺体を……』
「断るよ」
『……え?』
クリエに言葉にミヨンは呆然となる。
「大切な事は、例え自分が傷ついても自分でしないといけない。それが自身の意志ならなおさらね」
『ですがワタシには……」
と、ミヨンが文字を書き始めた時、クリエは財宝から一つの金貨を手に取った。
それはやがて黄金色に激しく輝き始め、ミヨンが感じた事のない魔力がそこにはあった。
そしてクリエはその金貨をミヨンの目の前に置く。
「ここに僕の力を宿した。それを食べれば君は新しい力を得て使徒になれるよ」
『し、シトに? なぜワタシなんかが……』
「君にはその資格があるから。力を得れば、君は食べた対象の姿、記憶、声、癖、ある程度の魔力の質も得る事が出来る。擬態や変化出来ると言った方が分かりやすいかな?」
『食べれば……』
「そうだよ。良く考えてね。君がその人の姿で家族に別れを告げる事が出来る。でも、何もしないならただ腐り果てるだけ」
『……』
「強制はしないよ。使徒になるには、その金貨が輝いている間がタイムリミット……僕は君が君自身の心に恥じない選択を選ぶと信じている。じゃあ、また後でね」
最後にクリエはミヨンに優しく微笑むと宝物庫を後にした。
一人残されたミヨンは、セレンの死体を見つめる。
その間にも金貨の輝きは徐々に弱くなっていった。
ほんの数回会っただけなのに、セレンとの出来事が鮮明に思い出される。
妹、クロエの事。
食堂を大きくする夢の事。
一緒に暮らそうと言ってくれた事。
旅行へ行って風景を見ながらご飯を食べようと言ってくれた事。
そして、友達と言ってくれた事……。
『……』
全てを思いだした時、ミヨンは目の前に置かれている、今にも光が消えそうな金貨を手に取った。




